桃の隊員による自爆に巻き込まれ、瀕死の重傷を負った猫咲と印南。
スズはすぐさま治療に入ったが、その姿は1人の桃太郎によって右京へと報告されていた。
彼からの指示はもちろん…
『もう1人向かわせる。生きたまま持ち帰れ』
鬼の国の天使に、悪魔の手が迫りつつあった。
第73話 高円寺奪還作戦B
自分たちとの戦いを邪魔され怒り心頭の桜介は、戦闘場所であるビルから飛び降りてくるなり同じ服を着た人物に向かって行く。
見慣れないその隊員は、右京と繋がったスマホを手にしていた。
「おいテメェどこ所属だ…!何、邪魔ぶっこいてんだクソ野郎…!」
「同感だね」
「返答次第じゃ容赦しねぇぞ!」
「右京さんの命令だ」
「「!?」」
『よぉ月詠、桜介ぇ。邪魔してわりぃな。単刀直入に言うぜ。お前らの手柄も俺がもらうことにしたからよろしく』
「あ?」
手柄を得るため、とどめは自分のとこの隊員にやらせる。
右京の身勝手な発言に、話が違うと練馬コンビはますます怒りを露わにする。
しかし年の功か、右京の方が一枚上手だった。
反抗してくる月詠と桜介に対し、彼らの部下を人質にとることで命令に従わせようとしていた。
『お前らの部下は拘束してる。戦いに参加して手柄はこっちがもらう。断れば部下が死ぬぜぇ〜』
「おいテメェ…自分が何言ってんのかわかってんのか…?」
「右京さん、規則違反です。桃同士の殺しはご法度ですよ?キャリアを失うことになりますよ?」
『構わないねぇ。今回の戦いが俺の全てだ。
ってことで引き続き戦闘に参加よろしくなぁ〜本番はここからなんだから。戦いを避けたりしても部下は死ぬからなぁ〜』
「おい右京…これは脅しじゃねぇ…決定事項だ。俺らを駒にしたこと、死ぬほど後悔させてやっからな」
『健闘を。アーメン』
そうして会話が終わった直後、不意に彼らの耳に入ってくる聞き慣れた声。
しかしその声は、いつもとは違う不安と怒りが入り混じったものだった。
「何するんですか!今、治療中なの!離して…!」
「「スズ!!」」
振り返った先で、スズが新たに到着した桃太郎に腕を掴まれていた。
右京と繋がっていたスマホを睨みつける月詠の横で、桜介はもの凄いスピードで彼女の元へと走る。
仲間殺しは厳禁のため、急所を突いて気絶させてから"平気か?"とスズへ声をかけた。
「ありがとうござい、ま…す」
「あ、おい!」
微笑みながらお礼を伝えたスズだったが、途中で腰が抜け座り込んでしまう。
普通の桃なら得意の体術でどうにか出来ただろうが、今回の隊員は少し違っていた。
力の強さも、発している圧も、すべてが強化されており太刀打ちできなかったのだ。
桜介が慌てて目線を合わせるようにしゃがめば、鬼の少女は照れ臭そうな笑みを向ける。
「ビックリして…腰が、抜けちゃいました」
「もう大丈夫だ。俺が傍にいんだろ」
「桜介さん…」
「お前は俺が貰うって決めてんだよ。他の奴らには手出させない」
強い眼差しでそう言った桜介は、スズの手に自身のそれを重ねた。
口調や見た目からは想像もできないほど優しい触り方に、スズはドキドキしながら視線を合わせる。
「(あー月詠が言ってたのってこれか…すげーキスしてぇ)スズ」
「は、はい」
「うちの隊来ねぇか?」
「えっ」
「このまんまお前のこと連れて帰りてぇ」
「な、何言って…!」
「知ってると思うけど、俺も月詠も戦うの好きなんだわ。だからしょっちゅうケガしてる。
でもお前がいれば、そういう傷すぐ治してくれんだろ?そしたら俺らはまた全力で戦える」
「ダ、ダメですよ!前も言いましたよね?治せる人間がいるからって、ケガしていい理由にはならないです!」
「うるせぇ。今、正論は置いとけ」
「うっ…」
「もちろんお前の身の安全は保障する。給料だってちゃんと払う。欲しいもんがあれば用意させるし、不自由な生活はさせない」
「…そもそも、私鬼ですよ?」
「分かってる。分かってっけど…気持ちが抑えらんねぇんだよ。お前と同じ空間にいると、何かすげー楽しくて…体全体がふわふわする」
「!」
「今みてぇに危ない状況になってたり、怖がってたりしたら…護ってやりたいって思う」
「桜介さん…」
「…そうやって名前呼ばれるたびに、喜んでる自分がいんだよ」
「…」
「(マジか…俺相手でもそういう顔すんのかよ。…たまんねぇな)俺さ、スズのこと…」
思わぬ相手…敵であるはずの桃太郎からの熱烈アピールにどうしていいか分からず、スズは赤い顔のまま俯く。
添えている手を払いのけられたり、嫌悪感むき出しの表情を向けられたりするのではないか。
そんなことを想像していた桜介にとって、自分のことを意識しているような彼女の態度は男心をくすぐるものだった。
いつの間にか自分の中に芽生えていた想いを伝えようとしたその時、また新たな人物が姿を現した。
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