突如聞こえた爆発音に振り返れば、さっきまで自分たちと話していた隊員が吹き飛んでいた。
抱き寄せることで、爆風によって巻き上げられた砂や小石からスズを護っていた桜介は、ビルの上の人影を見上げる。
「状況がいまいちわかんないんだけどど〜ゆう感じ?」
「(この声…!)」
「そこに倒れてるの俺の友達なんだけど?」
三日月を背負いビルの屋上に立っていたのは、杉並区鬼機関隊長の朽森であった。
軽い身のこなしで地上に降り立つと、いつもの飄々とした雰囲気のままゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「派手にやられちゃってんなぁ。2人はこっちがもらうよ。邪魔するつもりなら…ぶち殺すぞ」
「(先輩のあんな怖い顔初めて見た…)」
「お前が引き取れよ。瀕死の奴にとどめさしたってつまんねぇ」
「そ?じゃ遠慮なく。……で?」
「あ?」
「お前はいつまでその女の子抱き締めてるわけ?さっさと手離せよ」
「チッ…続きはまた今度話す。それまで男つくんなよ?」
「えっ!」
「ふっ。ほら行け」
桜介に送り出されたスズは少し後ろを気にしながら、腕を広げて待っている先輩の元へ向かう。
普通の女子ならそのまま抱きついてくるところを直前でピタッと止まるスズに笑みを零しながら、朽森はギュッと彼女を抱き締めた。
そして顔を覗き込みながら優しく声をかける。
「大丈夫か?何もされてない?」
「はい!むしろ危ないところを助けてくれて、護ってもらいました…!」
「何、あいつの肩持つの?」
「違います!本当なんです!波久礼先輩たちの治療してる時、あそこで気絶してる桃に襲われて…」
「本当に1ミリも手出されてない?」
「はい!」
「ほっぺにチューとかも?」
「な、ないですよ!何言ってるんですか!」
「ふ〜ん…」
「…なんだよ、まだ何かあんのか?」
「この子俺が今狙ってる子でさ。だから助けてくれたことには礼を言う」
「紫苑先輩…!」
「別にお前のためじゃねぇ。俺がしたいからそうしただけだ。それに…先に助けられたのは俺の方だからな」
「へ?」
「(あっ。練馬でのことだよね…あとで紫苑先輩にちゃんと言わなきゃ…)」
「そいつらが目覚ましたら言っとけよ。決着は次回に持ち越しだってな」
「スズ!生け捕り命令はなくなったけど、君を狙う奴は大勢いる。気をつけるんだよ」
「あ、はい!」
最後に揃ってスズへ笑みを向け、練馬コンビは一瞬にしてその場から姿を消した。
"男との約束2分で忘れちゃうんだよなぁ"とぼやきながら、倒れている同期の方へ歩いて行く朽森。
その背中に向かって、スズはガバッと頭を下げる。
「紫苑先輩、ごめんなさい!」
「ん?何、急に。どした?」
「あの、私…何度か桃太郎を、治療したことがあって…」
「何度か…さっきのガングロだけじゃなくてってこと?」
「はい…」
「そっかぁ……嫌だな〜スズが他の男に触んの」
「…え?そこ、ですか?」
「うん。そこ以外に気になるとこあった?」
「いや、だって…私、桃太郎を…」
「そこはどうでもいいかな〜俺にとって大事なのはそいつが鬼か桃かじゃなくて、スズに興味を持ってるかどうかだから」
「え、でもそれだと、私に興味がなければ桃と接してもいい、ってことに…」
「いいんじゃない?…そもそもの話、スズがしたいと思ってやったことを咎める奴なんかいねぇよ。
それだけスズは信頼されてるし、愛されてる。俺と同じぐらいね」
「!」
「ふっ。まぁもしそうじゃない奴がいたら、俺が力づくでどうにかしてやるよ」
「…怒らないんですか?」
「怒る理由ねぇもん。俺、女の子がすることは全部許すって決めてんの。だから…いつもの笑顔見せて?」
少し引き返して来た朽森は、そう言いながらスズの頬に優しく触れた。
照れ臭そうな笑みと共にお礼を伝える後輩の姿は、百戦錬磨の先輩にもど真ん中にぶっ刺さるのだった。
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スズの応急処置を受けた猫咲と印南は、少し容態が落ち着いて来ていた。
だが当然ながら自力で歩くことはできないため、何とか2人で運ばなければならない。
体の大きな印南は朽森が背負い、小柄な猫咲はスズが担当することに。
猫咲の腕を自身の肩に回して腰を支えるようにして歩き出せば、不意に意識が戻った彼が言葉を発する。
「……スズ…?」
「波久礼先輩…!」
「悪ぃな…重いだろ。少しなら歩けっから、腰の手離していいぞ」
「すみません、体痛いのに…」
「バーカ。お前がいなかったら、俺はもうとっくに死んでる。…ありがとな」
「そんな…!本当は私も背負えればいいんですけど…」
「…こっちのがいい。スズの顔…よく見える」
「なっ…!て、照れるようなこと言わないでください!」
「うるさっ。耳元で叫ぶなよ」
「はっ!ごめんなさい…!」
「ふっ。赤い顔してないで、早く運んでくれますか?」
「押忍…」
からかわれながらも、朽森の後ろを猫咲とともに進むスズなのだった。
to be continued...
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