「何か街全体がザワザワしてる感じがします…」

「住民情報盗まれてっからな…あちこちで…桃が暴れ回ってんだろ」

「(遊摺部君…)まだまだケガ人が増えますよね…それに四季のことも、どこにいるか分からないし…」

「スズ〜またいろいろ考え過ぎてるよ」

「!」

「俺が桃の本部で言ったこと思い出して?」

「…あれもこれも考えない。目の前のことに集中…!」

「そうそう。俺が傍にいるから大丈夫よ」

「この状態で言っても説得力ねぇけど…俺らもいる。皆でやりゃどうにかなっから」

「波久礼先輩…」

「スズ、元気を「俺に血かかるから、印南は静かにしてて」


3人の頼もしい先輩たちに励まされ、スズは1つ大きく息を吐いてから笑顔を取り戻す。

その数分後には、全員が無事に地下にあるアジトへ到着するのだった。





第74話 高円寺奪還作戦C





到着するなり、猫咲と印南はすぐに援護部隊によって運ばれて行った。

残った2人の元には、アジトの陣頭指揮をとる人物が駆け寄って来る。


「スズ!紫苑!」

「京夜先生!」「お疲れ様っす」

「お疲れ。2人はケガしてないんだね…良かった」


そう言って笑みを見せながら、花魁坂はスズの頭を優しく撫でた。

互いの無事を確認すると、落ち着く間もなくその足で会議室へと向かう。

スズと紫苑の向かいに座った花魁坂は、早速2人から聞き取りを始めた。

それぞれの労をねぎらいながら聞いていた彼が一番興味をもったのは、例の自爆事件についてだった。


「自爆?」

「はい。私も遠くから見ただけなんですけど、何の躊躇もなく実行してたような感じでした」

「スズも狙われたみたいで…でも太刀打ちできなかったんだよな?」

「あ、はい…」

「えっ!大丈夫だったの!?」

「大丈夫です!あの、練馬の桃の方に…助けてもらって…!」

「(そういう意味でも狙われてるのか〜うちの子は)なら良かったけど、スズが体術で勝てないってよっぽどじゃない?」

「何かいつもの桃と違ったんです…力の強さとか圧とか…」

「俺の目から見ても、かなりヤバイ雰囲気だったっすね」

「そっか…ちょっと調べてみた方がいいかもな」


そうして話がひと区切りついたタイミングで、淀川から連絡が入る。

鬼の救助のため市街地にいる彼らは、ビルの屋上から街全体を見渡していた。

今桃太郎が鬼を捕まえ、その息の根を止めるというカオスな状況が街のあちこちで同時多発的に起こっている。

それを踏まえた上で、一旦こちら側の現状を把握するため、淀川は報告を促す。


『各自状況は?』

「こちら京夜。印南・波久礼は一時離脱!でもスズの応急処置で大事には至ってない。他、負傷した隊員や避難者多数。

 それと今スズと紫苑から聞いたんだけど、桃の隊員が自爆した話が気になる。右京に対する忠誠心が異常すぎる。

 桃の死体を数人回収してくれ。調べたいことがある」

『分かった。スズ、聞こえてっか?』

「はい!」

『市街地でも負傷者が大勢出てる。一時救護所の指揮を頼む』

「分かりました!準備してすぐ向かいます!」

「こちら紫苑〜印南・波久礼運んだんで、スズの護衛しながら戻ります〜」

『テメェ、スズに手出したら殺すぞ』

「気をつけま〜す」

『こちら無陀野。大我と一緒だが、分かれて救助にあたる。俺は並行して右京を捜す』

『戦闘は避けられねぇ!皆、怪我すんなよ!水分補給も各自忘れんなよコルァ!』


そうして会話を終えた面々は、それぞれ行動を開始する。

治療に向かう花魁坂と別れたスズは、朽森に少し待ってもらい、備品倉庫で出発に向けた準備を進めていた。

外で待機していた朽森は、こちらに歩いてくる足音を耳にして顔を上げる。


「お前、無陀野先輩んとこの…あ〜名前何だっけ?」

「皇后崎。…スズは中か?」

「そうだけど、何か用?」

「ちょっとな」

「まぁいいけど…外に俺がいること忘れずに〜」


冗談っぽくそう言いながらヒラヒラと手を振る先輩を無視し、皇后崎はノックをしてから倉庫内に入って行く。

同期の突然の訪問に驚いたスズだったが、すぐに表情を和らげ駆け寄った。

スズにとって彼は、久しぶりに敬語を使わずに話せる相手だった。


「迅!」

「何か久しぶりな感じすんな。どこも何ともねぇか?」

「うん、私は全然…!それより遊摺部君のこと…」

「あぁ。…殴られたのに、まだあんま実感わかねぇよ」

「私も。…ほっぺ大丈夫?」

「大したことない。でも…スズに治してもらいたくて来た」

「! うん。座って?」


遊摺部に殴られた頬はすぐに冷やしたことで腫れは引いており、残りの口内の傷は鬼の力で簡単に治る程度だった。

それはスズも、皇后崎自身も当然分かっている。

それでも彼がここに来たのは、遊摺部の同期として同じ苦しさを抱えているスズに会いたかったからだ。

自分の右頬に添えられたスズの手に、皇后崎は目を閉じ甘えるようにすり寄る。

目の前で同期の裏切り行為を目撃した彼の心中を察し、スズはもう片方の手で皇后崎の手を優しく握った。

目を開け強く握り返した皇后崎は、静かに言葉を紡ぐ。


「…今自分が、遊摺部に対してどういう感情を持ってんのか分かんねぇ。

 情報盗んで、他の鬼を危険な目に遭わせてることは…絶対に許せない。

 でも…何か事情があるなら、同期としてどうにかしてやりたいって…心のどっかで思ってる」

「…私も同じ気持ち。今までの遊摺部君が、全部嘘だったなんて思えないし、思いたくない。

 女子と話す時の楽しそうな笑顔も、変なこと言って怒られてる時の凹んだ顔も、男子同士でワチャワチャしてる明るい顔も…

 絶対遊摺部君の本心だった。嘘であんな表情出てこない…!このままお別れなんて…嫌だよ」

「……俺が同期の中で一番冷静なんだよな?」

「えっ」

「同期の中で、一番周りが見えてる」


不意に聞こえてきたその言葉は、スズの記憶を刺激するものだった。

いつだったか、自分と皇后崎の間でそんな会話をした覚えがある。

あれは確か…雪山修行の時。矢颪のことを気にかけて欲しいとお願いした時だ。

それに気づいたスズは、俯いていた顔をパッと上げ皇后崎と視線を合わせる。


「ふっ。だから遊摺部のことは…」

「…迅にしか、頼めない」

「分かった。スズのその言葉があれば、俺はどんな状況でも自分を信じて進める。…絶対遊摺部を連れ戻してくる」

「うん…!ありがとう、迅」

「礼言うのは俺の方だ。いつも背中押してくれてありがとな」


穏やかな表情でそう言った皇后崎は、さっきよりも少しだけいい顔になっていた。



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