2人が見上げた先で、屋上が派手に破壊されていた。

不安そうに先輩の名前を呟くスズの頭をポンと叩いた百鬼は、代わりに上に向かって声をかけた。


「紫苑、まだやってたか。手伝うか?」

「いやいい。…おっ、スズも戻って来てんのね」

「大丈夫ですか…!」

「大丈夫よ。もうちょい待ってて」


スズの方へ笑みを向けた朽森は、再び銀と相対した。





第76話 高円寺奪還作戦E





百鬼が無事だったことで仲間が死んだと思った銀は、自身も捨て身の行動へと出る。

竜巻のように巻き上げたネジに紛れて朽森の背後に回ると、ある物を手に彼を拘束した。


「悪いが引き分けだ!」

「(自爆のスイッチ…!?)悪趣味な幕引きは嫌いなんだよ」


そう言いながら力を解放する朽森だったが、何故か血が形を成さず上手くいかなかった。

この現象を起こせるのは1人しかいない。

直後に体育館の方から聞こえてきた声は、百鬼が相手にしていた桃坂国領のものであった。


「銀!やれ!」

「生きてたのか…!?」

「あの人がいたら、紫苑先輩が血を使えないです…!」

「(国領…先に逝くぞ…)」


そこからは時間の流れがスローモーションのようだった。

血を操る国領の腕を百鬼が回転刃を飛ばして落とし、それによって血を使えるようになった朽森が能力を発動する。

と同時に銀が持っていたスイッチを躊躇なく押し……辺りに轟音が響き渡った。


「銀…」

「紫苑!お前死んでたら殺すぞぉ!」

「私、屋上に行ってきます…!」

「頼む」


百鬼に送り出され、スズは最短ルートで上へと向かった。

一方の屋上にはバラバラになった桃鐘銀の体と、チュースティックをくわえた1匹の黒猫がいた。

黒猫はみるみるうちに形を変え、数秒で人間の姿になる。


「腕すり抜けて回避させてもらったよ。いてて…!極限まで圧縮するから体がいてぇ…

 チッ…大我!そいつも爆弾持ってるはずだ!剥ぎ取って拘束しろ!

 ……馬鹿野郎が…真っ直ぐ過ぎてすぐ誰かのために死に急ぎやがる…だからガキは嫌いなんだよ…

 死んでどうする…生きてさえすりゃいくらでも選択肢があるってことを…教えてやりたかったよ…

 そんなことも教えられない俺はつくづく教師に向かねぇんだな…」


自嘲気味にそう呟く朽森の表情は、普段からは想像もできないほど悲しさと苛立ちで溢れていた。

屋上のへりに座り俯いていた彼の元にスズが到着したのは、それから5分ほど経ってから。

すぐにこちらへ駆け寄り、自分の足の間にしゃがむ後輩を前にして、朽森の顔は少し穏やかになる。


「…大丈夫ですか?」


飛び散っている銀の体に視線を向けた後、スズは朽森の顔の傷を触りながら静かに声をかける。

その声と表情から、単純に体の傷だけを心配して言っているわけではないとすぐに分かった。

最初に下から同じ言葉をかけられた時は笑顔で"大丈夫"と答えた朽森。しかし今回はそうはいかなかった。

スズの肩に頭を乗せると、彼女をギュっと抱き締める。


「……大丈夫じゃねぇかも」

「そうですよね……私こういう時なんて声をかけたらいいか、わからなくて…ごめんなさい」

「何で謝んの?肩貸してくれてるだけで十分」

「でも…紫苑先輩はいつも、私が悩んでる時たくさん声をかけてくれるのに…」

「そんなの大したことじゃねぇよ。生きてる年数がスズよりちょっとなげぇだけ」


先輩にそう言われたものの、何もできないのはやはり申し訳なくて。

スズは自分がしてもらって心が落ち着いたことをしてみようと思い、朽森の頭を優しく撫でた。


「! …スズ、今のもっかいして?」

「へ?」

「分かったフリして綺麗事並べられるより、スズが頭撫でてくれる方が元気でる」

「紫苑先輩…」

「……俺が羅刹の教師やってたって話、したことあったっけ?」

「いえ…!初耳です。そうだったんですか…」

「うん。でも向いてなくてよ…大事なこと何も教えてやれねぇうちに死なせちまった。柄じゃなかったんだろうな」

「…そんなことないです」

「…」

「私は…紫苑先輩の生徒ではないし、当時のことは何も知らないけど…

 この数日間で、先輩からいろんなことたくさん教えてもらったし…今こうしてちゃんと生きてます。

 ここに立ち寄ったのだって、逃げ遅れた子供がいるかもしれないからって言ってたじゃないですか。

 そんな風に考えられる人が教師に向いてないなんて…柄じゃないなんて…そんなことないです。朽森紫苑は、ちゃんと先生だったと思います」

「……スズさ、俺のこと落とそうとしてる?」

「こんな時に何言ってるんですか…!」

「だって…生まれて初めてぐらい心臓ドキドキしてんだもん」

「!」

「もう沼から抜け出せそうにねぇわ」

「えっ!?」

「スズ、彼氏いんの?」

「い、いないですよ…!」

「そっか。じゃあさ、俺のこと候補に入れて?…スズのもんになりたい」


言いながら顔を上げた朽森は、元の調子を取り戻していた。

しかし目の前の女子へ向ける微笑みは、いつものチャラい雰囲気ではなく…

彼のある意味本気の笑みであった。

そんなものを向けられれば、当然スズの心臓は大騒ぎ。今度は彼女がドキドキする番だった。

と、その時。


「スズ!紫苑の方はどうだ!?」

「あ、だ、大丈夫です!大きなケガはないです!」

「了解!こっちも拘束し終わったからそろそろ出発すんぞ!…紫苑、聞いてっか!?」

「聞いてる〜今行きま〜す。…あ、そうだスズ」

「は、はい!」

「俺とのやり取りは…?」

「! 秘密、です」

「正解〜……俺マジだからな?」


最後の言葉を耳元で囁くと、赤くなるスズを置いて朽森は屋上を後にするのだった。



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