"助けてください"
スズからのSOSが届いた瞬間、無陀野は自分の周りが無音になるのを感じた。
今彼の耳に入ってくるのは、不安と恐怖で震えているスズの声と息遣いだけだ。
「(救護所までは紫苑が一緒だったはず。そこから別の場所へ移動する場合、スズなら必ず連絡を入れる。それがないということは…)」
『先生…ごめんなさい…あの、私…』
「大丈夫だ、スズ。すぐに行く」
安心させるようにそう告げると、無陀野はすぐさま救護所に向かって走り出す。
その姿はあっという間に見えなくなっていた。
第77話 高円寺奪還作戦➆
スズとの通話を切ることなく、無陀野は走りながら声をかけ続けた。
普段口数の少ない彼にしては珍しいことで、額に少し光る汗を見ても、その必死さが伝わって来る。
「スズ、今声は出せる状況か?」
『…はい、大丈夫です』
「簡単にでいい。状況を教えてくれ」
ボスからの指示にスズは小声で、だが簡潔明瞭にこれまでの経緯を話し始める。
敵は複数…その全員が様子のおかしい桃太郎であり、太刀打ちできない。
今は仮眠室として使っている部屋に身を隠していると伝え、彼女は報告を終えた。
「分かった、ありがとう。今救護所の前に着いたから、もう少し頑張れ」
『はい…!先生も、気をつけ…ひっ!』
「スズ?…スズ!」
短い悲鳴を最後に、彼女との連絡が途絶えた。
ちょうど入口の前に立っていた無陀野は、桃の気を逸らすためにわざと派手に扉を破壊する。
思惑通り集まって来た桃を片っ端から倒していくが、それでも尚スズとの連絡はつかないまま。
そうして辿り着いた部屋に1人の桃太郎が立っていた。
彼の腕には、意識を失っているスズの姿が…
「…おい」
「!」
「誰の女に手を出してる」
その声と目と殺気は、まさに鬼そのものであった。
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「スズ。…スズ、しっかりしろ」
「…無人、先生」
うっすらと目を開けた少女は、しっかりと無陀野を認識し名前を呼んだ。
顔や体に傷はなく、言葉や記憶もハッキリしている。
自分が瞬殺した桃によって眠らされていただけと分かり、無陀野はようやく安堵の息を吐いた。
「遅くなってすまない」
「いえ、そんな…!ありがとうございます。あと……ごめんなさい。援護部隊なのに、助けを呼んでしまって…」
「お前は何も間違ったことはしていない。援護部隊としてケガ人や他の鬼たちを先に避難させ、残った奴がいないか最後まで確認した。
相手との力量を見極めた上で、逃げるのは得策ではないと判断し俺に助けを求めた。どれも褒められるべき行動だ」
「でも…本当なら自分で、どうにかしなきゃいけなかったのに…隠し通路とか場所とか、知ってたのに…頭が真っ白になっちゃって…」
「不測の事態は当然起こる。その時に自分の身とスズのことを護れるように俺たちは鍛えてるんだ。だからいくらでも頼っていい」
「先生…」
「いいかスズ。お前は援護部隊である前に、俺の生徒で大事な秘書だ。それを忘れるな」
「うぅ…はい」
「怖かっただろ。俺しかいないから、我慢しなくていい」
「じゃあ…ちょっとだけ抱きついてもいいですか?」
「! 当たり前だ。そんな許可取る必要ない」
その場に座り両腕を広げた無陀野は、そう言って穏やかな表情を見せる。
今にも零れ落ちそうな涙を堪えたまま、彼の背中に腕を回すスズ。
"無事で良かった"と頭を撫でられると、少女の目から大粒の雫が流れた。
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