無陀野に背中をトン…トン…と叩いてもらうことで、スズはようやく落ち着きを取り戻す。

袖で涙を拭きながら顔を上げれば、視線に気づいた無陀野が彼女の少し乱れた前髪を直した。

その自然で優しい手つきにドキドキしたスズは、再びボスにギュッと抱きついた。


「どうした?」

「いえ、何でもないです!……先生、体熱いですね」

「悪い、冷たい方が良かったか?」

「違います!あの…走って来て、くださったのかな…と」

「スズから助けを求められて、歩いてくるわけないだろ。変なことを言うんだな」

「(嬉しかったって言ったら怒られるよね…!)へへっ、すみません」

「…笑顔が戻ったな」

「!」

「好きな表情だ」


あまりにサラッと告げられ聞き逃すところだったが、目の前のイケメンはまた相当なことを言ったのではないか。

誰もが口にしたことのある"好き"というワードが、あの無陀野の口から出るとこうも刺激的なものになるとは…

この後の流れとして、いつもであれば1人アタフタする秘書に気づくことなく、彼は次の行動に移っていただろう。

だが今日は少し違った。


「スズは…」

「は、はい!」

「俺の言動で感情が乱れるのか?」

「へっ!?」

「俺が何かした後、よくこうして顔が赤くなっている気がする」


そう言ってスズの頬に手を添える無陀野。

今までは相手の心の揺れ動きに関して全く気づいていなかったが、彼もバカではない。

秘書が毎度同じような反応を示せば、いくらそちら方面にうとくても感づくものだ。

何と答えようか頭を悩ませているスズに対し、無陀野はさらに追い打ちをかける。


「…どうも俺は、お前のそういう表情や反応を見るのが好きみたいだ」

「なっ…!」

「だからこれからもよろしく頼む」

「は、はい!」


一体何を頼まれたのか分からないが、さっきとは違った意味で頭が真っ白になったスズはとりあえず返事をする。

彼女は以前から思っていた。

無自覚にドキドキさせてくるボスも恐ろしいが、もし彼が花魁坂のように心の機微に鋭くなったら大変なことになると…

今その片鱗を見たような気がして、スズは未来の自分を心配するのだった。


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通常運転に戻ったスズを伴い、無陀野は再び鬼の救助と右京捜索を再開する。

行く先々で桃を討伐し鬼を解放していくボスと、解放された鬼を治療していく秘書。

自慢の素晴らしいコンビネーションで、2人はビルの間を飛び回っていた。

と、そこへ久しぶりに見る顔が現れる。


「やっと再戦できそうで嬉しいぜ…」

「…」「練馬の…!」

「前回みてぇな決着はねぇ。最後までやろうぜ!決着はどっちかが死ぬまでだ!」

「どっちかが死ぬまでか…いいだろう。手短に済まそう」

「先生…」

「相変わらずクールだな。熱くいこうぜ!」

「スズ、このビル内と周辺にも鬼がいる。彼らの治療と避難誘導を頼めるか」

「分かりました!…死んじゃダメですからね」

「お前を悲しませるようなことはしない。約束する」

「はい!」


無陀野の言葉に、スズは満開の笑顔を見せる。

軽やかにビルを飛び降りる彼女を見送った後、無陀野は練馬コンビの方へと向き直った。



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