とある日の練馬支部…
その隊長室は、長の意向でシンプル…というか無機質な印象を与える部屋だった。
だが今日はそこに温かいミルクティーと、可愛らしいお菓子が並べられている。
練馬の近くで救護要請の入ったスズが、学園へ帰る前に淀川を訪問したのだ。
ちょうど任務もなく、事務作業をしていた隊長殿は二つ返事で彼女を迎え入れた。
そんな2人が、"ガチャン"という音とともに隊長室に閉じ込められてしまう。
ドアの下にある隙間から差し込まれた1枚の紙には、ここを出るための条件が書かれていた。
膝に乗って向かい合わないと出られない部屋 -淀川編-
他愛のない会話をしながら、2人は穏やかな時を過ごす。
最近あった出来事を楽しそうに話すのも、お菓子を美味しそうに食べるのも、主にスズの担当であった。
淀川はそんな彼女の姿を愛おしそうに見つめながら、コーヒーを片手に優しく相槌を打っていた。
と、相手の飲み物が空になっていることに気づき、彼は追加を持ってくると告げて部屋を出ようとする。
「…ん?」
「真澄さん?どうかしました?」
「ドアが開かねぇ」
その一言に、スズはつい先日自分の身に起きたことを思い出す。
淀川のことだ…鍵がかかっている状態で"ドアが開かない"とは言わないだろう。
ということはつまり、鍵がかかっていないのにドアが開かないのだ。
スズは恐る恐るドアの下に目をやる。
「やっぱり…」
「何だそのメモ。何か書いてあんのか?」
「これ…」
「…」
「私、前にも無人先生とこういう状況になったことがあって…その時はこれをしないと出れませんでした」
「…じゃあやるか」
「えっ!う、受け入れるの早くないですか!?」
「やんなきゃ出れないんだったら、やるしかねぇだろ」
そう言いながら、仮眠用に使っているソファへ向かう淀川。
ボスッと座るや否や、ソワソワしているスズを呼び寄せる。
「スズ、こっち来い」
「…あの、やっぱり私が…上、ですよね」
「それ以外の選択肢ねぇよ」
「押忍…!し、失礼します!」
緊張気味に膝に乗って来るスズが落ちないよう、淀川はすぐに腰を支える。
必然的に2人の距離は近くなり、自然と抱きつくような状態になった。
「これで開くのか?」
「と、思います…!」
「そっか。…お前さ、これ無陀野とやったんだよな?」
「はい」
「ふーん」
「真澄さん…?」
「(チッ…面白くねぇ)」
「あ、あの!もう降ろしても大丈夫ですよ?」
「…やだ。今日このまんま帰さねぇ」
「えっ!?」
「ずっと俺の膝の上乗ってろ。隊長命令だ」
「しょ、職権乱用です…!」
「ふっ。うるせぇ」
自分の中にまだあった嫉妬心に、淀川は我ながら呆れてしまう。
でも出てきてしまったものはしょうがない。
目の前の少女を逃がさないよう、腰を支える手に力を込めるのだった。
fin.
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