とある日の羅刹学園・保健室…
少し前からここを拠点としている花魁坂は、絶賛棚卸作業中。
日々たくさんの隊員や生徒たちが来るため、備品も薬品類も大量に抱えているわけで。
とてもじゃないが1人では無理となり、スズにも協力を要請していた。
そんな2人が、"ガチャン"という音とともに保健室に閉じ込められてしまう。
扉の下にある隙間から差し込まれた1枚の紙には、ここを出るための条件が書かれていた。
膝に乗って向かい合わないと出られない部屋 -花魁坂編-
昼が近くなり、2人の腹の虫が騒ぎ出す。
キリのいいところで作業を一旦止め、コンビニへ買い出しに行くようだ。
「手伝ってくれたお礼に奢るからさ、好きなもの好きなだけ買っていいよ!」
「本当ですか!?やった!」
「ふふっ。……あれ?開かない。鍵かけたっけ?」
花魁坂の言葉に、スズは再び記憶を刺激される。
何故このイベントは、いつも忘れかけた頃にやってくるのか…
絶対あるよな…と思いながら扉の下を見れば、やはり1枚の紙が挟まっていた。
「(ですよね…)」
「何見てんの〜?膝に乗って向かい合わないと出れ…え、どういうこと?」
「これ、私の周りで最近流行ってるみたいで…何かよく巻き込まれるんです…」
「その口ぶりだと初めてじゃない感じ?」
そうしてスズは、無陀野・淀川との出来事を簡単に話して聞かせる。
最初は面白そうに聞いていた花魁坂だったが、恥ずかしがり屋な少女にとってこのイベントを乗り越えるのがどれだけ大変かを思うと笑ってはいられなかった。
ましてや相手はあの無陀野と淀川だ。仮に同期でなかったとしても、一筋縄でいかないことは容易に想像できる。
ならせめて自分の時ぐらいはスムーズに終わらせてあげようと、花魁坂は心に決める。
「よしっ!じゃあお腹も空いてるし、ササッと終わらせちゃお!」
「はい…!」
「んー…イスよりはベッドの方が安定するかな」
「ベッド!?」
「あははっ!変なこと想像したでしょ。足が浮いちゃうと完全に体重預けるから、余計緊張しない?」
「た、確かに!」
「ソファでもいいんだけど、ここにないしね」
そう言いながら、花魁坂は保健室ならではのキレイに整えられたベッドに腰かける。
少し深めに座ることで、スズが膝へ乗った時にベッドに足がつく状態になるわけだ。
「はい、じゃあおいで?ベッドに座るつもりで来ればいいから」
「なるほど…!では、失礼します!」
「(あ、待って…これヤバイかも…)」
花魁坂の想定通り、ベッドの方が乗る側も乗られる側も安定してはいる。
だがその"安定"がスズにリラックス効果を与え過ぎてしまい、彼が思っていたよりも大胆に抱きついてきてしまったのだ。
"これなら先生にあまり体重かけなくていいです!"と喜ぶスズに対し、花魁坂は理性を保つのに必死だった。
「(スズってこんなに柔らかかったっけ?抱き心地良すぎる…)」
「ありがとうございます。いろいろ考えてくださって…!」
「(あの2人に困らされただろうから、早く解放してあげようって思ってたのに…)」
「きっともう開いてると思うので、コンビニ行きましょう!」
「(…このまま離したくない)」
「京夜先生…?」
「…ごめん、スズ。何か俺…ちょっと眠くなってきちゃった…」
「へ?」
「少しだけ、このまま寝させてもらってもいい?」
「そ、それなら横になった方が…」
「それだとほら、完全に寝ちゃうからさ。…スズの体温と重さがちょうどいいんだ。だから少しだけ…」
「は、はい!」
嘘をつくことに、申し訳なさがなかったわけではない。
でもドキドキしながらも、自分のことを寝せようと優しく背中を叩いてくれるスズが愛おしくて。
肩に顔を埋める花魁坂は、何とも幸せそうな表情であった。
fin.
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