突如繋がった通信装置。
そこから聞こえてきた声は、紛れもなく誘拐されていた一ノ瀬のものだった。
脱出の経緯を簡単に説明した彼は、すこぶる元気な様子。
『ツーことで俺は平気だ!』
「良かった…」
『(この声…!)スズ?』
「うん!元気そうで安心した」
『ありがと。心配かけてごめんな。今、遊摺部を捜してる最中だから!』
一ノ瀬曰く…
自分がいる正確な位置は分からないが、何やらホテルのような場所におり、その中のどこかに遊摺部もいるというのだ。
それから彼はスマホを繋いだ状態で同期がいると思われる場所へ向かう。
そこで、衝撃の事実を目の当たりにするとも知らずに…
第78話 高円寺奪還作戦G
桃から教えられた部屋のドアを勢いよく開けた一ノ瀬は、そこに捜していた同期の姿を発見する。
何とか話をしようと声をかけ続けるが遊摺部は聞く耳を持たず、ひたすら妹である文乃のことを気にかけていた。
普通に考えれば、部屋で兄妹水入らずの時間を過ごしていたところを邪魔されたからだと思うだろう。
だが一ノ瀬は言うのだ…部屋には自分と遊摺部しかいない。遊摺部はずっと1人で喋っているのだと。
そこへ不意に花魁坂から連絡が入る。
『こちら花魁坂。とんでもないことがわかった…回収した桃の隊員の死体を解剖したら…脳に桃が使う細菌がビッシリ付着してたんだ』
『考えられる可能性があるとすれば…"洗脳"…か』
『洗脳って…じゃあ遊摺部は洗脳されて幻覚見てんのか…?』
『ちょい失礼。じゃあスズのこと襲って来た、あの様子のおかしい桃の隊員も洗脳かな?
隊員全員洗脳できる力量があるってことは幹部クラスだけど、銀も国領も洗脳の能力じゃない…
ってことは、右京の能力は身体強化じゃなくて"洗脳"だったってことになるくない?』
朽森の発言で右京の能力の全容が見えてきた。
となると次に気にかかるのは、彼の力が遊摺部の現状にどう関わっているかだ。
答えは偵察部隊の頼れる副隊長・並木度が持っていた。
遊摺部には確かに妹がいる。だが母が亡くなったのと同じ頃、彼女も行方をくらませたと言うのだ。
そしてその妹の名が、先程会話の中で出た"文乃"であると告げて、並木度は報告を終える。
この時点で大人組は察していた。考え得る限り、一番最悪な状況になっていると…
『おい…死ぬほど胸糞ワリィ考えが浮かんだぞ…!』
『多分…合ってるぜ』
『生きてんなら、わざわざ洗脳して幻覚見せる必要ねぇもんなぁ』
『待てよ…"生きてるなら"って…どうゆう…』
『わかりやすく言ってやるよ。遊摺部は…妹がもう死んでることを知らずに…いいように使われてたってことだろ』
ピンと来ていなかった子供組に、淀川は冷静に事実を伝える。
全てを犠牲にして妹のために動いていた遊摺部。その最愛の少女はもうどこにもいないのだ。
同期たちと担任は、卑劣な右京に対して怒りを露わにする。
溢れる感情をぶつけるように建物を破壊した無陀野だったが、ふと横にいるスズが座り込んでいるのに気づくと、静かに膝をついて視線を合わせた。
「スズ、大丈夫か?」
「…酷いです…こんなの、人間がやることじゃない…」
俯いたまま震える声でそう言葉を発するスズは、爪が手の平に食い込むほど拳を強く握っていた。
援護部隊ということもあり、他の同期とは逆に怒りよりも悲しみの感情が前に出る。
遊摺部が負った心の傷のことを思うと、目からは涙が溢れるのだった。
そんな彼女の手を取ると、無陀野は静かに声をかける。
「手の力を抜け。それ以上やったら血が出る」
「あっ」
「たくさんの人間を救う優しい手だ。傷つけるのは良くない。握るなら俺の手を使え。いくら力を入れてもいいから」
「先生…」
「今日は泣いてばかりだな。…でもこの涙は似合わない」
「!」
「全員が遊摺部のために動いてる。俺も傍にいる。…もう少し頑張れるか?」
「もちろんです!私も、自分にできることを全力でやります!」
そう言ったスズの目に、もう涙は浮かんでいなかった。
元の強く真っ直ぐな視線を向けてくる秘書の姿に、無陀野は少し口元を緩めるのだった。
- 184 -
*前次#
ページ:
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
短編 目次へ
章選択画面へ
home