同じ頃、一ノ瀬が捕まっていたホテルでも動きがあった。
彼が提案した高円寺からの撤退を条件に解放された旋律と練馬の隊員たち。
隊員たちの一部はすぐに自身の隊長・副隊長の元へと向かい、残りはホテルに残っているという状態だった。
と、居残り組の隊員たちが不意に大きな音を耳にする。
慌てて駆けつけてみれば、そこにはボロボロになった旋律の姿が…
義理堅い彼は、一ノ瀬と遊摺部を逃がすため1人右京に立ち向かったのだ。
「旋律さん!」
「おい、これヤベェぞ…このままじゃ死んじまうよ!」
「んなこと分かってるよ!でも治療班なんかいねぇし…」
「…なぁ。あの生け捕り命令出てた鬼に頼めねぇかな」
それはもちろんスズのことである。
治癒の力を持つ彼女を月詠や桜介が迎え入れたいと言っているのを、隊員の誰もが必ず一度は聞かされていた。
この状況で頼りたくなるのも無理はない。
「でもどこにいるか分かんねぇだろ?」
「隊長たち何か知らねぇかな…」
「外出てる奴に連絡取ってみる!」
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遊摺部に関する情報共有がひと段落し、無陀野は再び目の前にいる桃太郎へと向き合う。
痛む体に鞭を打ち、月詠と桜介もまた戦闘態勢に入ろうとしていた。
その時、ビルの屋上から彼らの部下が大きな声で呼びかけてきた。
「月詠さぁぁん!桜介さぁぁん!」
「あ?」
「練馬部隊、全員解放されました!」
「あいつら…」
「一ノ瀬に助けられましたぁ!撤退してください!」
「は…?」
隊員たちは尊敬する隊長・副隊長、そして旋律を見習って筋を通す。
黙っていれば済むことを、しっかりと伝えたのだ。
そしてもう1つ。彼らにはやらなければならないミッションがある。
「あと…木下スズー!」
「えっ、私!?」
「お前の力を貸してくれ!」
屋上にいる隊員の1人がそう叫ぶのと同時に、スズと無陀野の傍に1台のバイクが止まる。
反射的に教え子を庇い鋭い視線を向けてくる無陀野にビビりながら、バイクを降りた隊員は彼女へ話しかけた。
「治療して欲しい人間がいる。俺と一緒に来てくれ!」
「えっ…」
「何故スズがお前らに力を貸す必要がある」
「…大事な人が死にかけてる。でも治療班がいない。だから…」
「スズに助けて欲しいと?生け捕り命令を出していたくせに、随分都合がいいんだな」
「それは…」
「おい!その死にかけてる奴って誰だ?」
「旋律さんです…!」
桜介からの問いかけに、隊員はそう言葉を返す。
同期の一大事に目を見開く練馬コンビ。そして驚きを見せた人物はもう1人いた。
「旋律さん!?」
「知ってるのか?」
「はい。華厳の滝の研究所で、私の傷を治してくれた方です…!」
「そういえばそんなことを言っていたな」
「でも、何で旋律さんが…」
「一ノ瀬が逃げる時間を作るために、右京に立ち向かって…それで…」
「! 四季たちのため……先生!」
何かを決意したように、無陀野を真っ直ぐ見つめるスズ。
その目には、援護部隊としての強い想いが宿っていた。
何も言わず彼女の頭に手を置いた無陀野は、改めてバイクの隊員を睨みつける。
「こいつに少しでも手を出したら…どうなるか分かってるな?」
「ひっ…!」
「そんなことは絶対にさせない。隊長である僕の首をかけるよ」
「月詠さん…」
「旋律は俺らの同期なんだ。だから助けてやって欲しい…!」
「そうだったんですか…!任せてください。必ず助けます!」
本職モードになったスズは、自信と慈愛に満ちた笑顔を2人に向ける。
彼女の頼もしい姿に、月詠と桜介は一時現状を忘れ見惚れた。
そんなことには微塵も気づかず、スズはバイクの後部座席へ跨った。
「じゃあ先生、行ってきます!」
「あぁ。何かあればすぐに行くからな」
「ありがとうございます!」
「…いつでも傍にいることを忘れるなよ」
そう言いながら、無陀野はスズの耳に装着されている通信装置をトントンと優しく叩いた。
これで助けを呼んだ時、言葉の通りすぐに来てくれたことを思い出す。
どれだけ離れていても、彼にとってその距離はないに等しい。
大切にしている少女が相手なら尚更である。
無陀野・月詠・桜介…自分のことを憎からず思っている男たちに見送られ、スズは助けを待っている人の元へと向かった。
to be continued...
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