和やかな雰囲気のスズ・一ノ瀬ペアとは打って変わって、無陀野と皇后崎の戦いは激化していった。
血を使わないという当初の約束通り、無陀野は愛用の仕込み傘1本で新入生の相手をしている。
にも関わらず、戦いは終始無陀野が圧倒していた。
「なぁ、無陀野って強ぇの?」
「強いよ。私達全員で行っても、服の裾すら掴めないぐらいには」
「マジ?」
「マジ。…そろそろ決着がつきそう」
仕込み傘から放たれた煙幕に紛れて、無陀野は皇后崎の脇腹に強烈な打撃をお見舞いする。
見事に吹っ飛び、痛みで倒れ込んでいる皇后崎を無陀野は仕込み傘で拘束した。
「また遠距離でくるという決めつけはよくない。それに右腕を庇い過ぎて他が隙だらけだ。
そもそも負傷状態で勝てると思ったか?相手の力量はしっかりと見極めろ」
「うっ…」
「だからこうなる。…スズに礼は言ったのか?」
「は?」
「耳を治してもらってなかったら、お前はもっと前にそうなってた」
「(す…すげぇ…)」
「くそ…」
「これが実戦ならお前は死んでるぞ」
「く…!まだだ!まだ終わってない!」
「必死だな。そんなに父親に会いたいか?」
「(父親…?)」「(やっぱりお父さんが関係してるんだ…)」
未だ降り続く雨の中、無陀野はそう言って皇后崎を見下ろした。
一ノ瀬と共に2人のやり取りを見守っていたスズは、その言葉に反応を示す。
やはり彼の強い想いの裏には、父親の存在があるのだと…
「なんで知ってる…」
「ある程度調べさせてもらった。ほかにも知ってるぞ。例えば…お前の父親が桃太郎ってこととかな」
「(あいつの親父も…桃太郎…!?)」
「(四季と同じ…!)」
「だったらなんだ…そうだよ、俺の父親は桃太郎だ…そして…俺から全てを奪ったクズだ!家族も!憧れも全部!」
そして皇后崎は続ける。
父親によって全身に刻まれた傷のせいで、一瞬でも憎しみが消えたことはない…
自分がごみを喰らってでも生きることに縋り付いたのは、全て父親を殺すためなのだと…
"そのためなら死ぬのなんて怖くない"
最後にそう言いながら立ち上がろうとした皇后崎を、無陀野は片手で思い切り押し倒し、後頭部を地面に打ちつけた。
彼の表情には珍しく怒りが露わになっていた。
「(無人先生、めちゃくちゃ怒ってる…)」
「ガキが何言ってんだ?はき違えるなよ?」
「…!」
「目標のために死ぬな。目標のために生き抜け。それが分からないなら、お前に明日はない。スズ、何か縛るものあるか?」
「あ、はい!」
受け取った縄で皇后崎を木に縛り付けると、無陀野は次に一ノ瀬へと目を向ける。
スズの応急処置のお陰で、彼はようやく少し体を動かせるようになっていた。
「少し動けるようになってきた…ありがとな、スズ。」
「うん…!」
「屏風ヶ浦は今どういう状態だ?」
「輸血をして、一旦は落ち着いてます。でもすぐにお医者さんに見せた方がいいです」
「分かった。どちらにしても屏風ヶ浦はここでリタイアだ。…もしもし、保険医をこの場所に送ってくれ。
さて。残るはお前だが…タイムアップまで5分42秒だ。それともう1つ…」
無陀野はそう言って、移動中に拾ったボールを見せる。
一ノ瀬に残された道は2つ。
森のどこかにあるもう1つのボールを5分半で見つけるか、目の前にいる最強の男からボールを奪うか…
どちらを選ぶのかと、スズがハラハラしながら見守る中、一ノ瀬はダッシュでその場から逃げ出した。
「…逃げたか。スズ、お前はここでこいつを見張っててくれ。何かあればすぐ連絡しろ」
「押忍!」
「…」
「今度はちゃんと言うこと聞きますから…!」
「ならいい。頼むぞ」
「はい!」
「くそ…」
一ノ瀬を追った無陀野は、あっという間に姿を消す。
その場に残ったスズは、不貞腐れたように黙り込む皇后崎の隣に腰を下ろした。
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