桃太郎が運転するバイクに乗り、スズは一ノ瀬や遊摺部が捕まっていたホテルへと到着する。
隊員に案内されて降り立ったフロアに、久しぶりに見る旋律の姿があった。
だがその状態は、華厳の滝で見た笑顔が思い出せなくなるぐらい酷いものだった。
「旋律さん…!」
「頭から血流してそこに倒れてたんだ。呼びかけても反応なくて…それで…」
「確かに脈も呼吸も弱いですね…頭以外も相当やられてる。…あの、1つお願いがあります」
「何でも言ってくれ!」
「治療に専念したいので、このフロアに誰も来ないよう見張ってていただけないでしょうか」
「分かった!ここにいる奴全員で守る」
「ありがとうございます」
微笑みながらお礼を伝えたスズは隊員を見送ると、表情を変えて患者と向き合った。
第79話 高円寺奪還作戦➈
まずは何より、致命傷となったであろう頭の傷に取り掛かるスズ。
思っていた通り傷は深く、経験豊富な彼女をもってしてもかなりの時間を要した。
体の方も打撲や切創はもちろん、骨折の箇所も1つや2つではない。
その全てを着実に治療していくこと1時間…ようやく旋律の意識が戻った。
「うっ…」
「旋律さん!」
「……お前、スズ…か?」
「はい。良かった…頭を殴られてたようだったので、記憶の方を心配してたんです」
「大丈夫…自分の名前も、お前のことも…ちゃんと分かる…」
「それを聞いて安心しました…!」
そう言って向けられた優しい微笑みに、旋律もまた口角を上げる。
"治療あと少しなので、もうひと眠りしててください"
スズの穏やかな声に導かれるように、彼は再び目を閉じた。
------
----
--
次に目が覚めた時、旋律は自分の体が確実に回復しているのを感じた。
もちろんまだ本調子ではない。でも痛みや体の重さはほぼなくなっていた。
体を起こし壁に寄りかかったところで、スズの姿がないことに気づく。
「(…スズがいねぇ。もうどっか行っちまったか…礼ぐらい言わせろよな)」
「あ、旋律さん!」
「いた」
「へ?」
「…何だよ、いんのかよ」
「いちゃダメですか…?」
「いや、そうじゃなくて…ちょっと捜しちまった」
「! ふふっ。ごめんなさい、お水取りに行ってて。起きた時誰もいないと不安ですよね」
もう一度"すみません"と言って微笑みかけながら、スズはペットボトルを手渡す。
少し口をゆすいでから、ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲む旋律。
完璧な治療と行き届いた配慮に、彼は感謝の意を伝える。
「ありがとう。助かった」
「いえ、それそこの冷蔵庫に入ってたやつなので…!」
「水のことじゃねぇよ。いや、まぁこれもありがたいけど…体の方だ。治してくれてありがとな」
「あ、そっちか…!どういたしまして!」
「(前もこんなやり取りしたな…)また借りができちまったな」
「それは違います。先に助けていただいたのは私の方で、そのお返しをしたくて来ました」
「え?」
「四季と遊摺部君のこと…護ってくださって、ありがとうございました」
膝をついたまま丁寧に頭を下げたスズは旋律の横に移動し、同じように壁を背にして座った。
普通に考えれば、幹部クラスの桃太郎と2人きりという状況は彼女にとって危険でしかない。
しかし華厳の滝の時に続き、またしても義理堅い一面を見せた彼のことを、スズは心から信頼していた。
「本当にありがとうございます。二度も助けていただいて、感謝しかないです」
「別に大したことしてねぇよ。このザマだしな」
「そんなこと言わないでください。旋律さんがいなかったら、2人はここを脱出できてません。もしかしたら死んでたかもしれない…
旋律さんが鬼とか桃とか関係なく、手を差し伸べてくれたお陰です」
「…それ最初にやったのスズだからな?」
「私?」
「華厳の滝の研究所で妊婦助けてくれただろ?自分だってケガしてたのに、桃太郎の治療を優先した。
俺そん時初めて、援護部隊の奴を強ぇなって思ってさ。目の前の奴を治すっていう…信念?みたいなの感じて、めちゃくちゃカッコ良かった」
「お、恐れ入ります…!」
そう言いながら照れ臭そうに笑うスズは、褒められた喜びを隠し切れない。
自分が発した言葉を噛みしめるように頬を緩ませている彼女を、旋律は微笑ましく見つめていた。
もっと話していたい。もっとスズのことを知りたい。
その想いに身を任せた結果、旋律は自然と彼女の肩に頭をコテンと乗せていた。
- 186 -
*前次#
ページ:
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
短編 目次へ
章選択画面へ
home