不意の接近に体温も心拍も急上昇したスズ。
一気に体に力が入るのを感じながら、静かに彼の名前を呼んだ。
「せ、旋律さん…?」
「…桃と鬼が仲良くすんのって難しいよな」
「!」
「でも桃とか鬼とか、貸しとか借りとか…そういうの関係なく、スズと仲良くなりてぇ。
普通のダチみてぇに遊び行ったり、くだらねぇことで笑い合ったり…お前とだったら、そういうのすげぇ楽しいだろうなって思った」
「…難しいことなんて何もないと思います。確かに桃と鬼っていう違いはあるけど、根本は同じ人間です。
話せばちゃんと分かり合える。そう思ってるから、鬼側はずっと桃の人たちと話をしたくて戦ってます」
「そうなのか…?」
「はい!殺し合って滅びる道じゃなくて、一緒に生きていける道を選びたいんです。特殊な先祖を持つ者同士、仲良くできると思いませんか?」
「確かに。似た境遇ではあるのか」
「そうですよ!だからこれからも仲良くしてください」
「えっ?」
「お友達になりましょう!」
満開の笑顔と共に発せられたその言葉に、旋律は思わず目を見開く。
あまりの邪気のなさに、桃と鬼であるという前提を忘れそうになったぐらいだ。
彼女の真っ直ぐな想いに、旋律もまた笑顔で"うん"と言葉を返す。
返事を聞き、嬉しそうにしているスズを見つめながら、旋律は静かに話し出す。
「…友達ってことはさ、その先に進むこともあるよな」
「その先?」
「スズを好きになる可能性があるかもしれないってこと」
「えっ!?」
「それとも…男女の友情は崩れないって思うタイプか?」
「あ、いや、そんな、ことは…!」
「ふっ、動揺し過ぎだろ。まぁ近くにライバルもいるし、正々堂々やらせてもらうからよろしくな」
「は、はい!」
一気にテンパる鬼の少女を落ち着かせるように、彼女の頭を優しく撫でる旋律。
脳裏に同期兼ライバルである彼の姿が浮かび、スズへ向ける視線に熱が入るのを自覚するのだった。
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時は少し戻り、スズが旋律の治療に専念していた頃…
皇后崎たちは桃によって運ばれてきた遊摺部を連れて、とある公園にやって来ていた。
野球ができるほどに広いそこは、もしもの時に備えて選択した場所だった。
目を覚ました遊摺部に対し、同期を代表して皇后崎が口を開く。
"お前の妹はもう死んでる"
さらに妹の文乃が成長していないことを指摘され、事実を受け入れられない遊摺部は遂に暴走してしまう。
大人に上手くなだめられるよりも、抱えている感情を吐き出させた方がいい。
それを受け止めるのが自分たちの役目であると、皇后崎は強い眼差しで告げた。
「それに…スズと約束したんだ。絶対に遊摺部を連れ戻すって」
「ははっ!じゃあ怒られねぇように、しっかり連れて帰んねぇとな!」
「スズちゃんもきっと、今頃頑張ってますよね…!」
「あぁ。あいつはいつだって、誰かのために全力で動いてる。負けてらんねぇぞ」
別の場所で頑張っている同期を想い、全員がギアを入れる。
だがそれぞれが血蝕解放をし挑んでいくものの、暴走した鬼の力は凄まじかった。
心も体もボロボロになっていく皇后崎たちは、ふと遊摺部の目に光るものを見る。
仲間たちの想いに導かれるように、少しずつ自我が戻りつつあるのだ。
それでもなお圧倒的な力の前に、同期たちは1人また1人と倒れていった。
自分を許せない気持ちと、仲間からかけられる温かい言葉にすがりたい気持ちの狭間で苦しむ遊摺部。
そんな彼の前に最後に残ったのは、自身もツラい過去を背負っている皇后崎であった。
「俺を見ろ…遊摺部…!」
「皇…ガ…さ…ギ…ぐン…」
「俺は随分角が取れただろう…?」
「ゲギ…ガ…」
「俺も全部失って…復讐以外何もないって思ってた…
だけど今の俺を見ろよ…気づいたら復讐以外のもんができちまってた…仲間だなんだって…知らねぇうちに…
それにな…初めて好きな奴もできた…そいつがいればどんな時でも前に進めるし…何があっても絶対護りたいって…そう心から思える…
嘘みたいだぜ…空っぽだった俺の心が…俺でも知らないうちにいろんなもんで一杯になってたんだ…
なぁ…遊摺部、今のお前は昔の俺だ…全部失った時の俺そのものだ…だからこそ言える…
お前の未来はまだ明るいぜ!大丈夫だ!」
体全体が悲鳴をあげている。だが皇后崎の表情はとても穏やかだった。
"仲間がいる"…そう伝えながら手を差し伸べる彼の姿に、遊摺部の心が揺れる。
「なぁ…体もキチィし、さっさと一緒に帰ろうぜ。そんで皆一緒に、スズに治療してもらおう」
温かい光の方へ、遊摺部は手を伸ばす。
その手を掴んだ皇后崎は、優しい笑みを浮かべて語りかけた。
「なぁ遊摺部…クソ恥ずいから二度は言わねぇけどよ…仲間ってのも案外悪くねぇよな。おかえり馬鹿野郎」
to be continued...
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