旋律の治療を終えたスズは、彼に"絶対安静"を言い渡しホテルを出る。
出た瞬間遠くに見える、禍々しい程にどす黒い細菌と怒りで満ち溢れた真っ赤な炎…
高円寺で発生した多くの事件、戦い、犠牲。
その全ての雌雄を決する場へ向かうべく、スズはローラースケートを蹴った。
第80話 高円寺奪還作戦➉
途中で無陀野へ連絡を入れ、行き先を伝えるスズ。
自分も向かう、巻き込まれないよう細心の注意を…という言葉に"はい!"と返事をし、スズはさらにスピードを上げた。
現場が近づくにつれ血の臭いが濃くなり、街並みの破壊も凄まじい。
音を立てないよう路地から顔を出せば、そこには右京の面影を残した怪物と、満身創痍で膝をつき血を吐いている一ノ瀬がいた。
"巻き込まれないように"
そう言われていたのに、気づいた時には同期の元へ駆け寄っていた。
「四季!!」
「スズ…!」
「(金づるが向こうから来たのはラッキーだが、今は邪魔だな…)」
「ここにいたら、ダメだ…!ゲホッ」
「おい!お前は生け捕りしないと価値がないんだよ!どいてろ!」
「どきません。今治療中なので」
「! スズ…」
「治療だぁ?黙ってさせると思うのか?」
「私を生きたまま捕まえたいんですよね?そんなもの投げたら、私も死にますよ?」
一ノ瀬の無数にある傷口から自身の血を送り込みつつ、スズは右京と会話を続ける。
目の前に車を片手で持ち上げている大男がいるのに、それを微塵も感じさせないぐらい彼女は冷静だった。
「はっ!取引でもしてるつもりか?お前が死んでも、まだ金に変わる奴はいくらでもいんだよ!」
「(だから別に死んでもいいってことか。こういう交渉ってなかなか上手くいかないんだな…)」
「2人揃って死ね!」
そう叫ぶと同時に、持ち上げていた車をこちらへ投げつけてくる右京。
咄嗟に自分が造れる中で一番硬いものである骨を使って壁を生成するスズだったが、骨は骨である。
交通事故で骨折するのと同じで、もの凄い速度で向かって来る車に太刀打ちできるはずはない。
「(それでもないよりはいいよね…!)」
「スズ?何してんだよ!早く逃げろって…!」
「逃げないよ。援護部隊は皆を護るためにいるんだから」
命の危険がすぐそこまで迫っているのに、スズの笑顔は普段と何も変わらなかった。
彼女は立ち上がると、膝をついている一ノ瀬をギュっと抱き締める。
だが車が2人に当たる直前、スズは聞き覚えのある声を耳にした。
「ソードの8」「朧桜」
「(えっ、この声って…)」
「よぉ右京。来てやったぞ、テメェおい」
「筋トレでも始めました?」
「月詠…桜介…何しに来た」
「わかってんだろぉ?随分コケにしてくれたなぁ?おまけにスズにまで手出しやがって!」
「色々知ってるお前らに生きててもらうと困るんだ。せっかく弱ってるし、ついでに始末するか」
「隊員同士の殺し合いはご法度ですよ?」
「知るやつがいなきゃ問題ねぇ」
「俺らを殺す気か…じゃあこっちも殺す気でやらせてもらうぜ?」
そう言って右京に対し殺気を飛ばす月詠と桜介。
スズに支えられながら立ち上がった一ノ瀬は、そのまま戦いに突入しそうな2人を"邪魔するな"と睨みつけながら止めようとする。
その覚悟を宿した目に興味を持った2人は、彼の準備が整うまで手を貸すという驚きの申し出をしてきた。
「月詠さん、桜介さん…!」
「…なんでテメェらが…」
「どっちでもいいぜ?遅けりゃ俺らがトドメ刺すだけだ」
「まぁ後輩たちの借りもあるしね」
「てことで右京、選手交代だぁ」
「スズは危ないから離れてるんだよ」
「あ、はい…!」
月詠の言葉に戸惑いながらも返事をし、一ノ瀬に視線を送る。
輸血のお陰で少しだけ顔色が戻った彼は力強い眼差しで頷き、スズを見送った。
男だけになり、辺りは再び殺伐とした空気に包まれる。
そんな中、不意に一ノ瀬が言葉を発した。
「…1つ頼みがある」
「ん?」「あ?」
「俺の準備が整った時…」
さぁ、最終決戦の幕開けだ。
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