路地へと避難し、様子を伺うスズ。

すぐに派手な破壊音と、知っている人たちのツラそうな声が聞こえてくる。

月詠と桜介だって、体は既にボロボロのはずだ。

だがそれでも鬼に手を貸し、全力で戦ってくれていた。

そうしている間にも、一ノ瀬が生み出す炎と殺気はどんどん膨れ上がっていく。

そしてそれが最高潮に達した時、スズは見た。

一ノ瀬の傍で光る、今までで一番精巧で破壊力のある大型の銃を…

思わず見惚れてしまうスズとは対照的に、戦闘部隊である2人はすぐに準備が整ったのだと察した。


「桜介!」

「わかってる!…スズ!こっち来い!」

「えっ、あ、はい…!」

「ここから離れる。俺の首に手回せ」


突然名前を呼ばれ驚きながらも、スズは桜介の言葉に素直に従う。

駆け寄って来た彼女を軽々抱き上げると、練馬コンビは近くにあるビルの屋上へと移動した。

それは数分前に一ノ瀬から頼まれていたことだった。


"…1つ頼みがある"

"俺の準備が整った時…スズのことを絶対に護って欲しい"


真っ直ぐに向けられた頼みを、月詠と桜介はしっかりと受け取った。

彼女にケガをさせたくないという気持ちは、2人も同じだったから。

お礼を伝えるスズを自分たちの間に座らせると、3人は一ノ瀬と右京の最終局面を見守った。


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"遊摺部の未来を奪い返す"

その強い想いと共に、自分の力を全て注ぎ込んだ一撃を放った一ノ瀬。

右京も対抗するべく能力を全開放したが、それでも彼の圧倒的な力には敵わなかった。

全てを燃やし尽くし、ガッツポーズを見せる一ノ瀬を、眩いほどの朝陽が照らす。


「遊摺部…ほんの少しだけ…取り返したぞ…」


一言そう呟き、彼は糸が切れたように意識を失った。

上で見守っていたスズはすぐさまビルから飛び降り、涙目のまま同期の元へ駆け寄った。


「四季…お疲れ様。ありがとう…!」


倒れた一ノ瀬の手をギュっと握ったスズの目からは涙が零れた。

朝陽を受けてキラキラと光るそれを袖で拭うと、彼女はすぐに本職モードに突入する。

背負っていたリュックから血液パックを取り出し、周りの瓦礫を上手く利用して輸血を開始した。


「ガッツリ気絶してんな」

「はい…血の使い過ぎと流し過ぎで、今まで立ってたのが不思議なぐらいです…」

「だろうな。…そっちはどうだ?」

「最後足掻いたせいかな?かろうじて生きてるよ。まぁ放っておいても死ぬね」

「……月詠さん!」

「ん?」

「…その人を、こっちへ運んでもらえませんか」


スズからの申し出に、練馬コンビは目を見開く。

放っておけば死ぬ桃太郎を、わざわざ自分の近くに運ばせる理由。それは…


「スズ、お前…助ける気か?」

「右京の能力の詳細が分かりません。もし彼が死ぬことで、遊摺部君の洗脳が解けないなんてことになったら…」

「なるほどね。確かに賢明な判断だけど…大丈夫?」

「…はい。でもまずは助けてくださったお二人のケガから治させてください!」


右京を連れてこちらに来た月詠と後ろに立っていた桜介を見上げながら、スズはそう言って笑顔を向けた。

同じ桃太郎にも関わらず、自分たちを優先しようとする彼女の姿勢に、2人は表情が和らぐ。

だが彼らの返答はNOであった。


「お前これから忙しくなんだろ。貧血で倒れんの見たくねぇわ」

「…何ともない時には私の力を見たがるのに、どうして本当に必要な時は断るんですか!こういう時こそ…頼ってください」

「俺、桃太郎だぞ?」

「そんなの分かってます」

「!」

「桜介さん私に、気持ちが抑えられないって言ってたじゃないですか。私も同じです。

 四季を助けてくれた人たちを治したい。その気持ちを抑えられないから…だから私に体を預けてくれませんか?」


立ち上がり、真剣な顔で訴えてくるスズを強く抱き締める桜介。

気を遣って視線を外す月詠には気づかず、彼はボソッと気持ちを吐き出した。


「お前本当…たまんねぇな…」

「お、桜介さん…?」

「いつか絶対練馬連れて帰る。覚悟しとけよ?」

「またそれ…!い、今はそれよりもケガを!」

「ケガはマジで平気だ」

「僕も桜介もすぐ病院に行くから心配しないで。ねっ?」


優しくそう言って、月詠はスズの頭を優しく撫でる。

大人な2人からのスキンシップにドキドキしながらも、スズは渋々首を縦に振った。


「じゃあせめて止血だけでもさせてください。じゃないと私の気が済まないです!」

「ここまで言ってくれてるんだ。お言葉に甘えようよ、桜介」

「…頼む」

「はい!」


2人の手に少し傷をつけ、そこから自身の血を送り込むスズ。

目を閉じ意識を集中させると、開いている傷を次々に塞いでいった。

スズからしてみればこのぐらいは治したことに入らないのだが、練馬コンビとしてはかなり体が楽になっていた。


「すげぇ…」

「うん、痛みが引いてく感じがする」

「…一旦止血はできました。でも傷自体は治ってませんから、必ずすぐに病院行ってくださいね?」

「おう!」「了解」

「あ、そうだ!言い忘れてましたけど、旋律さんは無事ですから!同期3人、仲良く療養してください」


明るい笑顔で見送ってくれるスズにお礼を伝え、月詠と桜介はその場を後にした。

残って一ノ瀬の輸血管理と、右京への最低限の治療を進めるスズの元に、別の大人たちが向かって来ていた。

到着するまで、あと3分。



to be continued...



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