その後もスズの手を離そうとしない淀川。

さっきよりも確実に相手の体温が上がったのを握った手から感じ取り、愛おしさは増すばかりだ。

と、そんな彼に新たな爆弾が落とされる。


「あの、真澄さんって…」

「?」

「手握ってると…エ、エッチな気持ちになるって…言って、ませんでしたっけ…」


そう言われて淀川は過去の自分を振り返る。

確かに練馬の一件の時、スズとそんな会話をした記憶があった。

それをまさか覚えていて、おまけにこの場面でぶつけてくるとは…

ポーカーフェイスを保った自分を、今日ほど褒めたいと思ったことはない。


「(こいつは本当に…)あぁ、言ったな」

「今…な、なってますか?」

「…なってるって言ったら、どうにかしてくれんのか?」

「えっ!いや、あの、それは…ちょ、ちょっとお時間をいただかないと…!」

「バーカ、本気にすんな。外で盛るほど欲求不満じゃねぇわ」

「あ、で、ですよね…!すみません!」

「安心しろ」

「へ?」

「…お前とエロいことする時は、ちゃんと部屋連れ込むから」

「なっ…!ま、真澄さん!!」

「ふっ。ほら、無陀野戻ってくんぞ。顔の赤さ消さねぇと」

「そんな器用なことできませんよ…!」

「(だろうな。こっちはそれを知った上でやってんだよ)」


案の定、戻って来た無陀野はスズのテンパり具合にすぐ気づく。

そしてその原因が、目の前にいる自分の同期にあるということも。

2人を交互に見やりながら大きくため息をついた無陀野は、"早く全体の状況を教えろ"と声をかけた。


「あ?お前が今聞いたんじゃねぇのか?」

「俺の方は生徒たちのことだけだ。全体のことはお前の担当だろ」

「チッ。馨、状況は?」

『鬼の救助は終了。被害は…鬼の隊員18名死亡、一般の鬼9名死亡、負傷者多数。

 桃はあらかた殲滅、捕虜もいます。狩り損ねた桃もいる可能性あり。右京の討伐、遊摺部君の回収ともに成功』

「(遊摺部君…良かった…!)」

『結果だけ見れば戦いには勝ちましたが…失ったものも多すぎます』

「そりゃそうだろ。戦争に無傷の勝者がいるわけねぇだろ」


スズと花魁坂がどれだけ頑張っても、救えない命はある。

数字で聞くと、それがより一層現実味を帯びて心にのしかかってくる。

朝陽が昇るのと同時に終結した、桃際右京による一連の事件や戦い。

だがスズたちには、まだ大きな課題が残されていた。


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アジトへと戻って来たスズは花魁坂と合流し、この後の治療方針について話し合う。

隊員や一般の鬼たちの治療はあらかた終わっており、残りは援護部隊の隊員たちに引き継ぐことで完了。

2人が向き合うのは、一ノ瀬への本格的な治療と右京の延命作業だ。


「じゃあスズは四季君をお願い。俺は右京の方に行く」

「えっ…」

「ん?どうかした?」

「あの、私も右京の方に行きます…!先生だけツラい思いするの嫌です。2人でやった方が、少しは心の負担が軽くなると思うので…!」

「! …ありがとう。スズのそういうとこ本当好き。でも俺1人で大丈夫だから」

「先生…!」

「確かに嫌だよ、あれだけのことしてきた奴の延命なんて。でもね…スズに同じ思いさせる方がよっぽど嫌だ」

「!」

「現場での応急処置だって、本当は代わってあげたかった。ごめんね、嫌な思いさせて」

「そんな…!京夜先生が謝ることなんて何も…!」


眉を八の字にして見つめてくるスズに、花魁坂は優しく微笑みかける。

それから一転して明るい調子で言葉を続けた。


「でも実際問題、あの状況からの延命は結構大変だからさ。師匠の出番ってことで!ねっ?」

「…」

「(時々見せるこういう意志が強いとこも可愛いんだよなぁ)…スズに1つお願いがあるんだけど」

「お願い?」

「うん!終わったら一緒に休憩しよ?で、その時に…また手握ってて欲しいな」

「! もちろんです…!」

「約束ね!四季君の方も大変だと思うから、何かあったらすぐ呼んで?」

「はい!」


ようやく笑顔が戻ったスズに、花魁坂も優しい笑みを向ける。

そうして2人は、それぞれの患者が待つ処置室へと入って行った。



to be continued...



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