スズと花魁坂が処置室に入ってから1時間。
援護部隊の要と言われるだけあり、2人ともそれぞれに託された患者の治療を終えようとしていた。
穏やかに眠る一ノ瀬を、ベッド脇に置いたイスに座って見つめるスズ。
ケガも骨折も治療は完璧に済ませてある。あとは体力と血が戻れば完全回復と言っていいだろう。
その時が1秒でも早く訪れることを願いながら、スズは一ノ瀬の手を優しく握った。
第82話 容疑 ー中ー
手が握り返されたのは、それから15分程経ってから。
"四季…?"と静かに呼びかければ、彼はゆっくりと目を開けた。
「スズ…」
「良かった…!」
「…俺…勝った、よな…?」
「うん!遊摺部君の未来を守ってくれてありがとう…!」
「(クッソ…言いたいことたくさんあんのに、頭が回んねぇ…)」
「まだ体キツイと思うから、そのまま寝てて?もう大丈夫だからね」
天使のような微笑みでそう言われ頭を撫でられれば、眠りに落ちて行くことに抗うのは難しい。
だから最後の気力を振り絞ってスズの手をギュっと強く握り締めた一ノ瀬は、一言だけ言葉を紡ぐ。
「…スズ」
「ん?」
「次、目覚めたら……伝えたいことある、から…聞いて欲しい」
「分かった!ゆっくりお話しようね」
彼女の言葉に少し笑みを見せて頷いた後、一ノ瀬はまたゆっくりと目を閉じるのだった。
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一ノ瀬と右京の治療を終えた師弟コンビは、休むことなく次の患者のところへ向かう。
花魁坂は遊摺部の様子を見に、スズは他の同期たちの治療だ。
1人ずつ順番に処置室へ来てもらい、遊摺部との話を聞きながらケガを治していくスズ。
皇后崎と矢颪を中心に、同期が一丸となって遊摺部の想いを受け止めたという事実に、治療中何度も胸が熱くなった。
そうして3人目の患者である屏風ヶ浦とお疲れ様のハグをして送り出した後、次に入って来たのは矢颪であった。
「スズ!」
「ちょっと碇、走っちゃダメ!ケガしてるんだから!」
「こんぐらい平気だって!それより何かすげー久しぶりな気がする」
「確かにしばらく別行動だったもんね。…他の皆から聞いたよ」
「ん?」
「遊摺部君のために、碇がすごく頑張ってたって」
「べ、別に大したことしてねぇよ。仲間として当然のことしただけだから」
「ふふっ。うん、そうだね!」
「…何、笑ってんだよ」
「ん〜?何か嬉しくて。碇が私たちのこと"仲間"って言ってくれるのが」
「えっ」
「雪山修行の時に言ってたでしょ?"俺の仲間はあいつらじゃねぇ!"って」
「!」
「あれ結構傷ついたんだよな〜」
「わ、悪ぃ…あん時はマジでガキだった…今は!遊摺部のこともスズのことも、皆大事な仲間だって思ってる!」
「…」
「スズ…ごめんって。機嫌直してくんねぇ?」
スズの顔を覗き込みながらそう言う矢颪は、怒られた犬のように垂れた耳と尻尾が見えるようだった。
元より怒っていないし、機嫌も損ねているわけではないスズは、その姿を微笑ましく見つめる。
そしてついに耐えきれなくなり、矢颪の顔を両手で優しく包み込んだ。
「なっ!スズ!?」
「ふふっ。碇のこの顔に免じて許してあげよう!」
「か、顔?」
「碇の顔、すごく穏やかになったから。カッコよくなった」
「おまっ…!そういうことは、結婚する奴に言うもんだろ…!」
「(あ、そうだ。碇はこっち方面デリケートなんだった…!)ごめんごめん!そうだよね!」
「…まぁ別に…嫌じゃねぇけど…」
照れ臭そうに視線を外す矢颪はとても可愛らしく、スズは思わずワシャワシャとその頭を撫でた。
それにまたくすぐったそうにして笑う彼。
そこには今までのトゲトゲした矢颪はおらず、ピュアで仲間想いな1人の好青年がいた。
今彼の周りにはたくさんの仲間がいる。共に戦い、笑い、涙を流す新たな仲間が。
「(良かった…碇はもう1人じゃない。きっとこれからもっともっと強くなる。見守り役は卒業かな…!)」
「スズ?どうした?」
「…今度碇の話聞きたい」
「! …うん。俺も聞いて欲しい」
「ふふっ、楽しみにしてるね!」
「……スズの話も聞かせろよ」
「私のも?」
「おぅ。スズのこともっと知りてぇ。華厳の滝ん時言ったろ?」
そう言って少し微笑みかける矢颪の急な大人っぽさに、スズの心臓はうるさくなる。
しかし花魁坂や朽森ならすぐに気づくような動揺っぷりを見せる彼女の姿に、ザ・子供の矢颪は気づく様子はなかった。
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