矢颪の治療を終えたスズは、最後の患者である皇后崎を迎え入れる。
一番重症だったにも関わらず"最後でいい"と言って待機していた彼は、もうすっかり同期の中のリーダーだ。
日に日に増していく彼の頼もしさは、今回もスズを大いに助けてくれた。
「待たせてごめんね…!」
「そんなに待ってねぇから気にすんな」
「…迅」
「ん?」
「ありがとう。遊摺部君のことも、約束守ってくれたことも。やっぱり迅にお願いして良かった!」
「! …俺がお前との約束破るわけねぇだろ」
「うん…!」
「なぁ…もうちょいそっち行っていいか?」
そう言うと皇后崎は返事を待たず、自分が座っていた丸イスを持ってもう1歩スズの方へ近づいた。
そしてドキドキしている彼女の肩に、そっと頭を預けるのだった。
「じ、迅?」
「やっぱお前すげぇよ」
「へ?」
「スズがいるって思うだけで、皆全力で遊摺部と向き合えた。どれだけ大ケガ負っても、精神的にキツくても…スズが全部癒してくれる。
だから今は、遊摺部のことだけ考えて立ち上がればいいって…そう思えた。ありがとな」
「嬉しい。私も少しは役に立ててたんだね…!」
「当たり前だろ。お前がいなかったら、俺ら全員生きてたか分かんねぇよ」
「お疲れ様。本当にありがとう」
皇后崎を労うように、スズは彼の背中を優しくさする。
処置室とはいえ、想い人と2人きりの空間。
入った瞬間から触れたくて仕方なかったが、肩を借りるだけに止め、何とか耐えていた。
だが相手から来てしまってはどうしようもない。気づけば、自然とスズの腰に手を回していた。
いつも冷静で理性的な皇后崎だが、この状況を拒めるほど大人ではなかった。
「(こんなの…好きにならねぇ男いんのかよ…)」
「あ、ごめん!体疲れてるよね。すぐ治療終わらせるから…!」
「…いい」
「えっ」
「もう少しこのまんまでいたい」
「いや、でも…!」
「頼むから…なっ?」
最後の言葉と同時に視線を合わせた皇后崎は、同い年とは思えないほど大人びていて。
赤い顔のまま頷いたスズに小さくお礼を伝えてから、また彼女に身を預けるのであった。
その後動揺しながらも無事に治療を終え、すっかり回復した皇后崎と共に処置室を出た。
生徒たちに割り当てられた部屋で、休憩も兼ねて同期と談笑するスズ。
この後はもう一度一ノ瀬の様子を見に行き、必要ならそのまま傍で見守るし、安定しているなら花魁坂と合流かな…と頭の片隅で考えていた。
「スズちゃんは、このままここにいられるんですか?」
「んー…この後少し四季のとこに行かなきゃだから、まだしばらくバタバタするかな…!」
「大丈夫?何か顔色が悪いけど…」
「確かに。ロクロと一緒に私が寝かしつけてやろうか?」
「あははっ!大丈夫だよ。ありがとう!」
「…スズ、お前ちょっと休め」
「え?」
「四季のことは俺らが見る。何かあったら呼びに行くから」
「それいいな!マジで休まねぇと体に毒だって。スズが倒れんの嫌だぜ、俺」
皇后崎の案に他のメンバーも次々と同意する。
いつも自分たちを心身ともに支えてくれる天使へ向けた、同期たちからの温かい配慮。
実際体はだいぶ疲れていたし、若干貧血の気配も感じていた。
スズは深く頭を下げてお礼を伝えると、仮眠室へと向かった。
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軽くノックをしてからドアを開けたスズは、設けられたソファに座る花魁坂を発見する。
こちらへ顔を向けた師匠の顔には、自分と同様疲労の色が見えていた。
「お〜スズお疲れ〜」
「お疲れ様です。遊摺部君どうですか…?」
「彼の場合、問題なのは精神面だからね…ひとまず薬で眠ってもらってる」
「ありがとうございます。…起きてからが勝負ですね」
「そうだね。だからこそ、スズもしっかり休まないと。こっちおいで?」
「はい…!」
ソファの隣をポンポンと叩いて笑顔を見せる花魁坂は、隣に座った愛弟子にココアを差し出した。
温かさと甘さを兼ね備えたそれは疲れた体に染み渡り、張り詰めていた心を解きほぐしていく。
ふーっと大きく息を吐くスズの頭を撫でながら、花魁坂は静かに話しかける。
「…少し休んでいけるの?」
「はい!同期の皆が、四季のことは自分たちが見るから休んでこいって言ってくれて」
「そっか。じゃあ俺も彼らに感謝しないとな…スズと一緒に休憩できること」
「ふふっ」
「(可愛いなぁ…)お互い眠くなるまで、少し話そっか」
「そうですね!」
日増しに大きくなるスズへの想いを流し込むように、花魁坂はココアの入ったカップを傾けた。
to be continued...
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