無陀野は効率重視の性格のため、移動手段も早さを求める。

故に室内以外は、彼の足元は常にローラースケートを履いた状態だ。

そんな彼と行動を共にするとなれば、スズにもそれなりのスピードが求められる。

鬼は一般人より運動能力が高いとは言え、常にローラースケートと一緒に走っていては業務に支障が出る。

そこでスズは、この事態を解決するためとある方法を採用している。


「先生、待って下さい!今、紐結びますから…!」

「片足やってやる。…スズも俺と同じタイプのやつ買うか」

「同じタイプ?」

「紐じゃなくて、ベルトの方が早く準備できる。…キツくないか?」

「はい、大丈夫です!ありがとうございます。そっか〜確かにそうですね。今度買い物付き合って下さい!」

「あぁ。行きつけのところを案内する。…よし、じゃあ行くぞ。掴まったか?」

「はい!オッケーです!」


スズが採用している移動手段は、彼女もまたローラースケートを履くことだった。

だがその状態で走っても、無陀野と並ぶためにはかなりの体力を要する。

なので彼女は、無陀野がいつも持っている仕込み傘に掴まって移動するのがお決まりになっていた。

傍から見れば変な光景だが、これが一番効率的なのだから仕方ない。


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偵察部隊から血液反応の報告があった場所は、工事中の建物だった。

建物内から空が見える程に天井や壁面が派手に壊され、鬼の血の覚醒によって起きた出来事の激しさを物語っている。

すっかり静けさを取り戻した現場には2人の人物がいた。

1人は和服に身を包んだ年配の男性であり、体の状態や出血量からして死亡していると思われる。

そしてもう1人は…

頭から2本の角を生やし、年配の男性の前でうなだれている少年だった。


「…彼が覚醒した鬼の子ですね」

「あぁ。倒れている方はもうダメだと思うが、念のため確認を」

「分かりました」


無陀野から指示を受け、スズは静かに男性の方へ向かう。

背後から突然現れた女子に、鬼の少年は驚いたように視線を向けた。

そんな彼にスズは優しく微笑むと、年配の男性の体を調べ始める。

脈なし・呼吸なし・瞳孔散大と死亡の3条件が揃っている上に、この出血量…確実に死亡していた。

スズはゆっくり顔を上げると、鬼の少年の背後に立つ無陀野に無言で小さく首を振る。

それに応えるように1つ頷いた彼は、いよいよ鬼の少年に声をかけた。


「ここじゃ人目につくな」

「!」


まぶたを閉じさせたり、血を拭ったりといったスズの穏やかな動きに見入っていた鬼の少年は、その声にハッと背後を振り返る。

だがそこに既に無陀野の姿はなく、再び背後に回った彼に首のツボを突かれ、少年の体はあっけなく力を失った。

少年が最後に見たのは、自分に対して変わらず優しげな笑みを向けているスズだった。


「(天使って…本当にいるんだ…)」


彼女の口が"大丈夫"と動くのを見届けながらそんなことを思い、少年の意識は深く深く沈んでいった。


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「簡単に背後を取られるなんてな…減点!審査するだけ無駄かもな…」


"入試採点記入表"と書かれた紙を挟んだクリップボードを秘書から手渡された無陀野は、評価を書き入れながらそう言った。

彼が記入している間、仕込み傘とカバンを預かっていたスズは、倒れている2人に目を向けながら言葉を漏らす。


「たぶんこの男性はお父さんです…身内が亡くなった直後っていうのを考慮してあげて下さいよ」

「お前は甘い。それじゃ審査にならないだろ」

「そうですけど…」

「それより2人を運ぶ手続きは?」

「連絡済みです。もうすぐ車が来てくれると思います」

「そうか、ありがとう。助かる」

「いえいえ」

「どうする?この後の審査にスズも立ち会うか?」

「ぜひ!」

「ん。じゃあ俺らも戻るぞ」

「押忍!」


そうして戻った学園で、鬼の少年の入学試験が始まる。



to be continued...



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