さらに15分が過ぎ、2人はほぼ同時に目を開けた。

寝起き特有のまったりした空気感の中、最初に声を発したのはスズであった。


「先生〜おはようございます」

「おはよー…」

「あの…膝枕してみたんですけど、少しはゆっくり寝れましたか?」

「うん、最高だったよ。ありがとう。もう幸せ過ぎて起きたくない」

「ふふっ。良かったです!」

「(本当にこのままずっと一緒にいれればいいのに…)」


想いと連動して表に出そうになる悲しげな表情を瞬時に引っ込めると、花魁坂はいつもの明るい笑顔で体を起こした。

ぐーっと揃って伸びをすれば、次なる行動の開始だ。

一ノ瀬の様子を見に行こうか迷うスズに対し、花魁坂には確定的な予定が入っていた。


「会議……遊摺部君のこと、ですか?」

「…うん。まぁそれだけじゃなくて、右京の処遇も含めたこれからのことも話し合うけどね」

「そうですか…」

「……一緒に来る?」

「えっ!いいんですか…?」

「もちろん、スズを2つの立場の間で悩ませたくない気持ちは大前提としてあるよ。でもスズが望んでるなら、それを拒むことはしたくないんだ」

「…私を連れてって、京夜先生が怒られたりしませんか?」

「あははっ!それは別にいいよ!…でも大丈夫だと思うけどな〜大人組皆、スズのこと大好きだから」

「! ありがとうございます…!」


こうしてスズは花魁坂に連れられ、大人組が勢揃いしている会議室へと向かった。


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ドアを開けて顔を覗かせた花魁坂に、室内からは口々に労いの言葉がかけられる。

それにお礼を返しながら、彼はタイミングを見計らってスズのことを切り出した。


「…あのさ、もう1人会議に参加させたい子がいるんだけどいいかな?」

「「「?」」」

「……し、失礼します」


花魁坂の後ろから顔を出した少女に、皆それぞれに反応を示す。

目を見開く者、すぐに笑顔を向ける者、自分の横に座らせたくて手招きする者…

その中で唯一表情の変わらなかった例の彼が、ゆっくりとスズの前に歩いて行った。


「会議への参加はスズの意志か?」

「! …はい。ツラい内容もあると思いますけど…ちゃんとこれからのこと知っておきたいんです。…あ、でも!聞かせたくないことがあればすぐ出て行くので…!」

「前にも言ったが、俺たちが話していることでお前が聞いちゃいけないことは何もない。むしろ意見がある時は聞かせて欲しい」

「無人先生…」

「ただし、聞いたり考えたりするのが苦しい時はすぐに言うこと。無理に全部を聞かなくていい。約束できるか?」

「はい…!」

「ん。今、席を用意する」

「そう言うと思って持って来たよ〜」


いつの間にか部屋を出ていた花魁坂は、そう言いながら折り畳みのイスを持って入って来る。

ここで問題になるのはスズの座る位置だ。

後ろの端っこでいいと言うスズ、"こっちこっち"と自分の膝を叩く朽森、そしてそれを全力で阻止しようとする淀川。

そのやり取りを笑顔で見守る並木度・花魁坂ペアに、スズの前向きな姿勢を褒める印南と百鬼、そして淀川がいる手前静かな猫咲。

何ともカオスな状況は、無駄が嫌いな彼によって終わりを告げる。


「全員うるさい。スズは俺の後ろに座ればいい」

「え〜無陀野先輩だけズルいっすよ〜」

「自分の秘書を傍に置いて何が悪いんだ?」

「いいな〜俺もスズに秘書やって欲しいっすわ」

「お前はそこら辺の女でも連れて歩いてりゃいいだろ」

「真澄先輩、分かってないな〜遊ぶ子とは別がいいんすよ」

「うるせぇ。どうでもいいわ」


淀川と朽森の通常運転な会話を聞きながら、スズは花魁坂が置いてくれたイスに腰かける。

自席に戻る途中で彼女の近くへ来た無陀野は、少し口角を上げてその頭を優しく撫でた。


「分からないことがあれば随時聞いてきていいからな」

「ありがとうございます!」

「スズ〜俺にも聞いていいからね?」

「ふふっ。ありがとうございます!」

「おい、猫ぉ〜こいつの口塞いどけ」

「ひゃい…!」


5分後…

ようやく場が落ち着き、話し合いモードに突入する会議室。

スズもノートを広げ、準備万端だ。

だが話し合いがスタートして10分も経たないうちに、大きな音を立ててドアが開けられた。

入って来たのは見事な復活を遂げた一ノ瀬であった。

自分の元気そうな姿に安堵するスズに気づかないほど、彼は真っ直ぐに大人たちを見据えていた。


「目が覚めたか」

「どう?不調とかない?」

「遊摺部の処罰ってなんだよ!なんであいつが罰受けねぇといけねぇんだよ!あいつは洗脳されてたんだろ!」

「うっせぇなぁ…ガキがピーピーうるせぇんだよ」

「あ?」

「洗脳状態だったのは本当だろうよ。けどずっとか?右京は全てを操ってたのか?遊摺部自身で動いた瞬間はなかったのか?

 妹、人質に取られた状況だ。あいつの意志で動いた可能性もなくはねぇだろ。途中から桃に心酔した可能性も0じゃねぇ」

「絶対遊摺部は無実だ!」

「(私もそう信じてる…!)」

「根拠0だな。右京の野郎に尋問しても、洗脳には個体差があるって言いやがる」

「遊摺部君とやり合った子たちにまた話聞きます?」

「大した情報ねぇだろ。…やっぱ面倒なことになったな」

「行き詰まったし、一旦解散する?」

「子供の命運がかかってんだ!答えが出るまで話し合いだ!」

「四季君の仲間を思う心意気…Gооd!ガハッ」

「…遊摺部君が洗脳状態だったことを、何とか証明できないでしょうか」

「! スズ…」


抑えきれず溢れ出たスズの想い。そこで一ノ瀬はようやく彼女の存在を認識する。

遊摺部に対し同じ思いを抱く人物が部屋にいると分かり、その表情は少しだけ和らいだ。

他の大人たちがスズへ視線を向ける中、無陀野もまた彼女の方をチラッと見やる。

そして不意に自身のスマホを取り出し画面を操作してから、静かに言葉を発した。


「記憶を覗ける鬼を1人知っている」

「えっ!記憶を…?」

「…あぁ、いやがったな。けどあの婆生きてんのか?」

「記憶を見れる鬼なんて初めて聞きました」

「俺らも昔1回会った程度だ」

「滅多に人前に出てこない人だよね」

「そいつなら遊摺部の無実証明できんのか!?」

「人の記憶を覗けるなら可能性はありそうだけど。その人の居場所を知ってる人は…?」

「1人、心当たりのある人物に連絡を取った」

「どなたですか?」


スズからの問いかけに、無陀野はちょうど電話がかかってきたスマホの画面を彼女の方へ見せる。

そこに表示された名前に、スズは目を見開いた。


「こ、校長先生!?」



to be continued...



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