無陀野のスマホに表示された予想外の名前に、スズは驚きの声を上げる。

他の生徒たちより羅刹に長くいる彼女でもほとんど接点がなく、声を聞いたこともないぐらいの存在だ。

その相手が、スマホの向こう側からのんびりと話し始める。





第84話 個々の心





『校長って意外と暇だから頼られて嬉しいよ〜』

「(こういう感じの人なんだ…!)」

『知ってるよ?記憶を覗ける鬼の居場所』

「本当ですか!?」

『おっ!この声…スズ君かな?会話するの初めてだよね〜こんにちは』

「あ、こ、こんにちは!初めまして…!」

『初めまして〜優秀だって聞いてるよ。皆のこと護ってくれてありがとね』

「とんでもないです!私の方がたくさん護っていただいてますから…!」

『いい子だね〜前に無人君がさ、スズ君以外の秘書はいらないって言ってたんだけど、その理由が分かる気がする』

「えっ」

「…校長、話を戻してください」

『あ〜ごめんごめん。記憶透視の鬼は長野県松本にいるよ。連絡入れといてあげるよ。

 それと"頑張ってね"って伝えといて。僕はここから"動けない"からさ。あとお土産もよろしくー松本は蕎麦とかしめじが有名…』


また脱線しそうになる校長の話を、通話を切ることで強制的に終わらせた無陀野。

彼の意外な面が暴露され、室内は少し変な感じになる。

スズもソワソワしていたのだが、そんなことを物ともせず空気を変える男がいた。


「よっしゃー!そしたら早く行こうぜ!」

「(うわ!さすが四季…!)」

「その前に遊摺部の洗脳を解く」

「あ!そうじゃん!よっしゃ!早く解こうぜ!」

「騒がしいやつだな」

「右京は別室にいるから移動しますか」


花魁坂の一声で場は解散となり、先輩後輩から成るイケメン集団は揃って部屋を出る。

スズもまた一ノ瀬と言葉を交わしながら出てくると、不意に背後で自分たちの担任の名前が呼ばれるのを耳にした。

振り返った先には平隊員が3人、無陀野の方へ熱い視線を向けていた。


「無陀野さん!今回の戦闘、遠くから見てました!凄かったです!圧倒的な強さに感動しました!」

「…」

「無陀野さん!戦闘部隊にぜひ戻ってください!無陀野さんに鍛えてもらえたらみんな喜ぶ…」

「すまないが、そのつもりはない」

「え…?なんでですか!?無陀野さんほどの人が教師なんてもったいないですよ!」

「…」


最強と言われる無陀野が、鬼の中で特別な存在であることは知っていた。

だがいざ目の前で教師を辞めるよう説得されている光景を見るのは、スズにとって胸が苦しくなるものであった。

それに加えて、無陀野が纏う空気が重くなったのを感じる。

気づいた時には、スズはボスを護るように前へ出ていた。


「あ、あの!先生、ちょっと疲れてるので…そ、その辺にしていただけないでしょうか…!」

「!」

「君には関係ないだろ!」

「いや、でも…先生、困ってます…から」

「今僕は無陀野さんと話してるんだ!君はどいててくれ!」

「す、すみません…」

「前線で戦う俺らより、彼女たちみたいな子供を優先するなんて悲しいっす!」


思っていた以上に強い口調で返され、スズはすっかり萎縮してしまう。

シュンとしたまま俯く彼女を慰めるように、頭へ優しく置かれる手。

その人物はスズへ少し目配せして下がらせると、彼女と隊員の間に立った。


「うっせぇな。やらねぇって言ってんだから話は終了だろ。こいつにまで絡むな」

「いや、だってもったいないです!あの実力があるのに!無陀野さんの強さに憧れてるんです!好きだからこそ言ってるんです!」

「あ?好きだからってつけりゃ、何言ってもいいと思ってんのか?

 好きだから言ってる?愛情人質にして遠まわしに命令してんじゃねぇよカス野郎が。

 そうやって何かを盾にして思い通りに動かそうとするやつをカス野郎って言うんだよ。

 カスみてぇなこと言うくせに嫌われたくねぇってか?笑わせんなよカス。強くなりてぇから戻れって真っ直ぐ言ってみろっての」

「はいはい真澄隊長、そこまでです。隊員が死にかけてます。

 ま!隊長はそれぞれの生き方を尊重しようねって言ってるだけだから。

 あぁでも1つだけ…君は"悲しい"って言葉を使ったけど、あれは不要だったね。

 "悲しい"って言葉で圧をかけて心に突き刺さりやすくして言うのは、正直性格の悪さが滲み出てるから気をつけたほうがいいよ。

 あと…あんまりこの子に絡むのはオススメしないかな」

「へ?」「馨さん…?」

「泣かせようもんなら…夜道歩けなくなっちゃうから」


スズの肩に手を置いた並木度は、笑顔を崩さないままそう忠告した。

彼女を慕うメンバーの中には、腕に自信のある者や姿を消せる者、毒薬を扱える者までいる。

夜道どころか、いつどこで報復されるか分かったものではない。

偵察コンビの舌戦に負けた隊員たちは、精神をボロボロにされて去って行った。



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