平隊員たちが去り、場には偵察コンビと無陀野・スズ・一ノ瀬だけが残った。

同期の2人が言葉を交わしているのを見つめながら、一ノ瀬がポツリと言葉を漏らす。


「でもぶっちゃけなんで先生やってんだろうな、ムダ先って。スズ何か知ってる?」

「ううん、何も。先生ってあんまり自分の話しないから…」

「僕も全部知ってるわけじゃないけど…

 無陀野さんは最年少で戦闘部隊の隊長に成り上がってから、数々の功績を挙げてきた人だからね。けどある一件以来…」

「「?」」

「いや…僕も詳しくは知らないんだ。でも…積み上げてきた功績を捨ててでもやるべきことが、教師だったんじゃないかな。

 いつか本人から聞ける日が来ると思うよ」

「そうですね…!」

「ふーん…聞いてくる!」

「えっ、ちょ、四季!?」

「四季くん。多分今じゃないよ。ビックリしたよ」


分からないことはすぐに聞くというお子ちゃま脳の一ノ瀬を慌てて止めるスズと並木度。

しかし当の本人は何故止められたのか分かっていないようで、2人は顔を見合わせて苦笑した。

そうこうしているうちに同期コンビの会話が終わり、話題の人物が声をかけてくる。


「四季、他のやつらを起こしてこい」

「分かった!」

「私も行きます!」

「いや、スズは残ってくれ。少し話がある」

「あ、はい!」


"じゃあ後でな!"と笑顔でその場を離れる一ノ瀬に手を振り、スズは無陀野を振り返る。

並木度もいつの間にか姿を消しており、通路には2人だけが残された。

無陀野はスズを伴い、先程まで会議をしていた部屋に再び入って行った。


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「さっきは不快な思いをさせてすまなかった」

「そんな…私が勝手に出しゃばっただけですから!…その割に、全然役に立てなくてごめんなさい。先生、ツラそうにしてたのに…」


部屋へ入るなり無陀野から発せられた謝罪に、スズは驚いたように言葉を返す。

そして自分の不甲斐なさを、今度は彼女が謝るのだった。

俯く教え子へ1歩近づくと、無陀野は一言断りを入れてからその体を抱え上げた。

当然のようにテンパるスズを会議室の大きな机の上に優しく降ろしてから、彼女の両脇に手をついて距離を詰める。

囲われることで逃げ場のない状態になってドキドキが増すスズに対し、無陀野は静かに言葉を紡ぐ。


「…スズの背中を見た時、すごく不思議な感じがした」

「えっ」

「今まで…誰かの後ろに立ったり、庇われたりしたことがあまりなかったから」

「あっ…確かに、そうですよね」

「だから、今の自分の気持ちを…上手く伝えられない」

「……嫌では、なかったですか?」

「それはない。マイナスな感情でないことは確かだ」

「良かった…それだけ聞ければ十分です…!」

「…今、こうしてスズと向かい合って…1つハッキリしたことがある」

「?」

「お前を大切にしたい気持ちが強くなった。きっと俺は…スズに特別な感情を持ってる」

「へっ!?」

「それが何か分かったら…伝えさせてくれ」

「は、はい!」

「ありがとう」


そう伝えた無陀野は、愛おしそうにスズの髪を撫でる。

大人組の他のメンバーならすぐに気づくであろう感情が、この最強の鬼にとっては実に難しいもののようで…

その無意識にぶつけてくる真っ直ぐな言葉に、スズはもう成す術がない。

諸々がオーバーヒートする前に話題を変えなければ…と頭を働かせた結果、1つ聞いておきたいことがあるのを思い出した。


「そ、そういえば先生!」

「ん?」

「さっき校長先生が言ってたことって本当ですか?その…私以外の秘書はいらないっていう…」

「あぁ、本当のことだ。まぁあの場面で言うことではなかったがな」

「ふふっ。でも…優秀な人が他にいるでしょうし、ついてもらった方が楽だったんじゃ?」

「俺は今までずっと1人で行動してた。その方が効率的だし、無駄もないからな。

 けどスズと一緒に過ごすようになって、公私ともにサポートしてもらううちに、こっちの方が心身ともに健康でいられると思った。

 俺の考え方や行動を先読みして、スムーズに行くように動いてくれる。俺のことを常に気にかけて、声をかけてくれる。

 確かに優秀な人間をつければ楽になるかもしれないが、お前が与えてくれるような癒しや快適さはない。

 俺は優秀な秘書が欲しいんじゃない。木下スズに傍にいて欲しいんだ。だから他の秘書はいらないと伝えた」

「…」

「ふっ。自分で聞いておいて、何でそんなに赤い顔してるんだ?」

「先生のせいじゃないですか…!」


両手で顔を覆うスズを、無陀野は穏やかな表情で見つめていた。

そして何とか感情が落ち着いたタイミングで、2人は部屋を出るべく出口へと向かう。

と、不意にスズが前を歩くボスの服を掴んだ。


「ん?どうしたスズ」

「…まだ…私たちの"先生"でいてくださいね」

「! …教え子が半人前ばかりなのに、途中で放り出すわけないだろう」

「うん…!」

「それに…スズの傍を離れたくないって言わなかったか?」

「!」

「ふっ。まだ面倒をかけるつもりだから安心しろ」

「はい!」


いつもの明るい笑顔に戻ったスズだったが、この後彼女は悲しい現実を目の当たりにすることになる。

遊摺部の洗脳解除と今後の処遇。

最後にして最大の課題が、スズたちを待ち受けていた。



to be continued...



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