無陀野と共に会議室を出たスズは、少し離れたところにある別室へと移動した。

入って右手側には大人組が、左手には生徒たちが既に揃っており、その時を静かに待っていた。

そして入口の真正面…部屋の最奥には、あらゆる機器に繋がれた状態でベッドに横たわる右京の姿。

傍に立つ淀川に軽く頭を下げてから、スズは機器を操作して患者の状態を確認する。


「…どうだ?」

「大丈夫です、安定してます。脳波も聴覚も異常ないので、ちゃんと意思疎通はできるかと」

「了解。…お前のことは調べた。病気の娘がいるんだな。死んでも助けになるように、自分にも多額の保険かけてんだな。

 けどその金はお前が死なないと入らねぇ。洗脳解けば、早急に殺してやるよ。死亡証明としてお前の死体は捕虜に持たせて送り返してやる」


耳元で話される淀川の言葉に反応するように、右京は少し目線を彼の方へ向けた。

と、そこへドアのノックと花魁坂の声が聞こえてくる。

彼に伴われて中へ入って来たのは、憔悴しきっている遊摺部であった。





第85話 再会の約束 / 清算





同期の痛々しい姿に、皆が皆心配の表情を浮かべる。

ベッドの方へ近づいてくる花魁坂とアイコンタクトをしたスズは、場を譲るようにサッと一ノ瀬の横へ移動した。


「さぁ洗脳を解いてもらうよ」

「…」

「遊摺部くん、右京の手を握って」


花魁坂に促され、静かに手を差し出す遊摺部。

だが彼の動きはそこで止まり、不意に背後を振り返る。

まるで妹に呼び止められたかのように…


「遊摺部くん?どうし…」

「いるんです…ここに妹がいるんです…本当に…いるんです…」

「遊摺部くん…それは幻覚なんだ…妹さんはもう…」

「それでも…妹と離れたくない…」

「遊摺…」

「いいだろ…僕以外見えなくても…誰にも迷惑かけないんだから…それにもう羅刹には戻れない…なら…妹と静かに過ごさせてくれ…」

「お前の処罰は未定だが、その後の道の決定権はお前にある。だが…

 死んだ人間に捉われて生きるか、その想いや体験を未来に活かすかもお前次第だ」


無陀野の言葉を受けても尚、遊摺部は妹との離別を拒否しようとする。

自分にしか見えていない妹へ必死になって語りかける姿は、スズたちにとってもツラいものであった。

そうしてしばらく兄妹の会話が続く中で、遊摺部の表情が少しずつ変わっていく。

声は聞こえないが、きっと妹が背中を押してくれているんだろうと、同期の誰もが肌で感じていた。


「……うん、頑張るよ…お兄ちゃん…たくさんの人の役に立って…自慢のお兄ちゃんになるよ…」


少し笑みを見せながらそう告げた遊摺部は、足に力を入れ立ち上がった。

が、まだ本調子ではないのかその体がふらついてしまう。

すぐにそんな彼を支えた一ノ瀬は、誰もいない空間へ向かって声をかけた。


「妹さんよぉ…俺にゃ見えねぇけど、そこにいんだろ?兄ちゃんは任せろ!1人にはさせねぇから!」


一ノ瀬の言葉に、同期全員が同じ想いで遊摺部の妹へ顔を向ける。

その時確かに、スズは幼い少女の"ありがとう"という声を聞いた気がした。

そして同期たちに見守られ、遊摺部はついに右京の手を取る。

彼の体から溢れ消えていく黒い細菌が、最愛の妹との別れが近いことを示していた。


「文乃。守れなくてごめんな…いろんなところ連れてってやれなくてごめんな…

 かっこ悪いところ見せてごめんな…こんなお兄ちゃんの…」

"も〜お兄ちゃん…"

「妹になってくれて…ありがとう…また会おう…!必ず…!」

"! …またね!お兄ちゃん!"


兄と妹のしばしの別れに一ノ瀬や屏風ヶ浦、そしてスズもまた大粒の涙を流すのであった。



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