遊摺部の洗脳が解け、室内の空気は一旦落ち着きを取り戻す。
涙を拭った彼は深く頭を下げ、その場にいる全員に対し謝罪の言葉を口にした。
「すみませんでした。謝っても許されないことをしました。たくさんの人に被害を与えて、本当に申し訳ありません…」
「いや、だって洗脳され…」
「それでも、謝りたい…すみませんでした。それと…みんなありがとう…
見放して軽蔑されてもおかしくないのに…見捨てないでくれて…仲間って言ってくれてありがとう…
どんな罰も受け入れるつもりです」
「調べがつくまで処分は保留だ」
「だぜ!俺らがお前の無実を証明してくれる鬼を連れてくっから!なっ、スズ!」
「そうそう!私たちに全部任せて!遊摺部君のミッションは、心と体をしっかり休めること。無茶したら怒るからね?」
「うん…!いろいろごめんよ」
「気にすんな!みんなでパッと行ってくっから!」
「行くのは四季と皇后崎と俺だけだ」
「「え!?なんで!?」」
「戦いの後で人手不足だ。他のやつはその手伝いを。遊摺部は待機だ。あと…スズ」
「はい!」
「秘書として同行を頼めるか?」
「もちろんです!新幹線の手配しておきます」
「ありがとう、頼む」
今後の動きがまとまったところで、花魁坂がパンと手を叩き空気を変える。
これから最後の大仕事…桃際右京の命を絶つという仕事に取り掛かるのだ。
見ていて気持ちのいいものではないため、花魁坂は皆に退室を促す。
ぞろぞろと出口へ向かう面々の中で、"俺にトドメをやらせてくれ"と一ノ瀬が声をあげた。
「え?」
「頼むよ…俺が殺すって決めてたんだ」
「ん〜…」
悩みながら、一ノ瀬の担任である同期に視線を送る花魁坂。
それを受け、無陀野は無言で首を縦に振った。
そうして全員が出て行き、部屋には一ノ瀬・花魁坂・淀川の3人が残る。
いや、あと1人…室内に残った者がいた。
「スズ…?」
「…やっぱり残る」
「えっ、でも…」
自分が人を殺すところを想い人に見せたくない。
もしも何か誤解があって関係が悪くなったら立ち直れない。
だがそれと同じぐらい、一番近くで見守って欲しいという気持ちもあった。
きっと、どんな自分も受け止めてくれるはずだから…
相反する想いが交錯し返答に詰まる一ノ瀬に対し、スズは茶目っ気のある表情で声をかけた。
「私が傍にいた方が安心するでしょ?」
「!」
「…あれ?無人先生にそう聞いたんだけど…違った?」
「違くない!…めちゃくちゃ安心する」
「良かった!……四季が今どういう気持ちでここに立ってるか…全部は無理だけど、少しは理解してるつもり。
だから四季の覚悟も、想いも…四季自身のことも…傍で見守らせてもらえないかな…?」
真剣な眼差しを向けてくるスズに、一ノ瀬は少し前に交わした花魁坂との会話を思い出す。
自分が漏らした情けない発言に対し、"スズをそんな子だと思ってるの?"と厳しく言い放った花魁坂。
思えば、彼から怒った顔や強い言葉を向けられたのはあれが初めてだったかもしれない。
今少し視線を動かすと、あの時とは対照的な優しい笑みを見せる花魁坂と目が合う。
その表情からは"そんな子じゃなかったでしょ?"と聞こえてくるようだった。
まばたきで返事をした一ノ瀬は、スズへと顔を向ける。
「俺も…見守ってて欲しい」
「うん…!」
「じゃあスズは俺と一緒に少し下がってよっか」
「あ、はい」
少し離れたところに2人が移動するのを待ち、一ノ瀬は右手に銃を生成する。
ベッドを挟んだ反対側には、偵察部隊隊長がナイフを片手に待機していた。
「しくったら俺が殺る。ミスんじゃねぇぞ」
「綺麗な状態で返したいから心臓を撃ってね」
「…手を汚すのは、俺らの世代で最後にする」
聞こえてきた一ノ瀬の覚悟に、スズはハッと目を見開く。
"先生たちと…私たちがいるこの世代で、戦争を終わらせたいです!"
数日前、スズも似たことを無陀野や花魁坂に伝えた。
近くに同じ思いの仲間がいることは、彼女にとって大きな支えになるはずだ。
そして一瞬の静寂の後、一ノ瀬は右京の心臓目掛けて引金を引いた。
寸分の狂いなく撃ち抜かれた銃弾によって、一連の出来事の首謀者はこの世を去る。
が、命の灯が消える直前…
右京は最後の力を振り絞って淀川の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「まっすー!」「真澄さん…!」
「〜〜〜」
「あ?テメェどうゆう…」
淀川の耳元で何事か囁いた右京は、今度こそ本当に死地へと旅立った。
言い逃げ状態で死亡した相手に舌打ちをしてから、淀川は花魁坂を連れて足早に部屋を出て行く。
「まっすー?」
「京夜テメェちょっと来い」
「え?」
「…馨、スズたちが出てきたら後処理やっとけ」
「え?はい」
先程までとは違った意味のピリピリした空気を感じ、スズと一ノ瀬は顔を見合せる。
右京の言葉がキッカケなのだろうが、それ以上のことは踏み込んではいけない気がしていた。
一気に音がなくなった部屋で、一ノ瀬は自分の手を見つめた。
フー…と大きく息を吐き、グッと強く握り締めた右手は、不意に温かいものに包まれる。
目を開ければ、大好きな人が優しく微笑んでいた。
「お疲れ様」
「……俺のこと、怖くない?」
「怖くないよ。四季はちゃんと…こっち側にいるから」
「! …ありがとう。スズが傍にいてくれて良かった」
右手を包んでくれているスズの手を握り返し、もう片方の手を彼女の腰に回す。
そうして近づいた想い人の肩に、一ノ瀬は静かに頭を乗せた。
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5分後…
揃って出てきた2人を、穏やかな表情の同期たちが迎える。
一ノ瀬と矢颪が並んで先頭を歩きながら、一行は通路を進んでいた。
「中で何かあったのか?」
「いや、俺らにもよくわかんねぇんだよ。なっ、スズ」
「うん…右京が真澄さんに何か言ってた感じなんだけど、内容までは聞こえなくて」
「ふーん…その真澄隊長がムダ先と花魁坂連れてどっか行ったけど、遊摺部も連れて行ったんだよ」
「遊摺部も?」
「てことは、洗脳絡みのことかな…」
何もかもがわからずフワフワした会話をしながら歩いていると、とある通路の突き当たりに話題の人物たちを発見する。
スズたちの視線の先には無陀野の胸倉を掴む淀川と、慌てた様子の花魁坂と遊摺部の姿があった。
だがすぐに淀川がこちらに向かって歩いてくる。
「あ、こっち来る。……なんかあったの?」
「うるせぇ」
「むぅ…」
「(真澄さん機嫌悪そう…)」
「こっちの話だ、気にするな」
後から来た無陀野もまた、それだけ告げて去って行った。
さて、残された子供組…この後彼らは2組に別れる。
松本へ向かうスズ・一ノ瀬・皇后崎の出張組と、高円寺でのヘルプ作業に従事する残留組だ。
どちらにしても行動開始は明日の朝一であるため、今日はアジトに1泊することになっている。
その夜…
割り当てられた部屋で過ごすスズを、1人の男性が訪ねてきた。
ドアを開ければ、いつになく真剣な表情の彼が立っていた。
「あ、四季!どうしたの?」
「遅くにごめん。少しだけ…時間もらえねぇかな?」
to be continued...
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