不意に訪ねてきた同期を、快く迎え入れたスズ。

と言っても簡素な部屋故、机やイスはない。来客用のイスなどもってのほかだ。

並んでベッドに腰を下ろすと、スズは緊張気味の一ノ瀬を不思議そうに見つめるのだった。





第86話 R.I.P





静かな時間が流れる中、一ノ瀬はパッとスズの方へ顔を向けた。

緊張しているのかと思っていたその表情は、意外と柔らかいものだった。


「…スズってさ、何でそんなにかっけぇの?」

「へ?きゅ、急にどした?」

「俺が右京と戦ってる時…スズ来てくれたじゃん?」

「うん」

「顔見た瞬間…すげー嬉しくて、安心して…何かこう…腹の底から力が湧いてくる感じがしたんだ。

 あんな化け物みたいな奴が目の前にいんのに全然怯まねぇし、いつもと変わんない笑顔で俺のこと護ってくれて…めちゃくちゃカッコ良かった」

「ありがとう。何か照れるな…!でもそれは、四季にも言えることだよ?」

「俺?」

「覚えてるか分かんないけど、私も前に同じこと伝えてる。

 同期を守るために、頑張ってもがいてる四季はめちゃくちゃカッコいい…って。

 前は帆稀のため、今回は遊摺部君のため…四季はあの時と何も変わってない。あの時と同じ、優しくて真っ直ぐで仲間想いな四季のままだよ」

「人を…殺した後でも?」

「もちろん。言ったでしょ?怖くないって」


一ノ瀬の顔を覗き込んだスズは、そう言って穏やかに微笑む。

その大好きな笑顔を前に、一ノ瀬は自分の中の想いが固まるのを感じた。


「…全部覚えてるよ」

「ん?」

「スズが俺に言ってくれたこと…全部ちゃんと覚えてる。だって好きな子が俺のために言ってくれた言葉…忘れるわけねぇじゃん」


言い切った一ノ瀬は、突然ガバッと立ち上がりスズの前に立つ。

そして彼女の目を真っ直ぐに見つめ、ずっと伝え続けてきた想いを改めてぶつけた。


「俺、スズのことが好き」

「!」

「俺頭悪ぃし、誰かのことこんなに好きになんのも初めてで…どうやって言えばいいかわかんねぇんだけど…

 とにかくスズのことが好きで好きで…もうどうしようもないぐらい好きなんだ」

「四季…」

「最初は、天使みたいに優しくて穏やかでめちゃくちゃいい子だなって…そんだけだった。

 でも一緒にいるうちに、スズの信念とか強さとか目の当たりにしてさ、すげーなっていつも思ってた。

 俺がどんだけ情けねぇこと言っても、ダセェとこ見せても、絶対傍にいてくれて…

 親父の最期にも立ち会ってくれたし、墓参りも一緒に行ったし…その全部がめちゃくちゃ嬉しかったんだ。

 他の誰よりも一緒にいる自信あったから…なんつーか、俺が一番スズと仲良いって、勝手に思ってた。

 だから…皇后崎とか矢颪とかと笑って話してんの嫌だったし…スズ、大人組にも可愛がられてんじゃん?それも…モヤモヤしてた」

「そう、だったんだ…!」

「うん……あーもう!本当はもっと伝えたいことあんのに、やっぱ全然まとめらんねぇ…」

「そんなことない!…ちゃんと、伝わってるから」


恥ずかしそうに下を向いているスズの頬と耳は、一ノ瀬が今まで見たことがないほど赤かった。

相手からのドキドキが伝わると、途端に彼の心拍数も上昇する。

しばらく赤い顔の男女が向かい合ったまま謎の時間を過ごしていたが、それを終わらせたのは女子の方であった。


「四季、華厳の滝の時も…言ってくれてたんだよ?…"好き"って」

「えっ!?」

「やっぱり無意識だったか」

「お、おぅ。俺、他に何かキモイこと言ってなかった…?」

「ふふっ、言ってないよ。その単語だけ。でもその言い方が、その…心の底からって感じだったから…すごくドキドキしたんだ」

「そっか…!」

「だからね…四季の気持ちは、ずっと前から私に届いてたよ。ありがとう」


恥ずかしがりながらも、優しい笑みを向けてくれる想い人に、一ノ瀬はまた自分の気持ちが大きくなるのを感じた。

抱き締めないようにと力を入れていた手が、思わず緩んでしまうほどに…


「返事聞く前にこんなこと言うの、ルール違反だと思うんだけど…」

「?」

「…ちょっとだけ、スズのことギュってしたい。…ダメ?」

「あ、いや、だ、大丈夫です…!」


また赤い顔で俯くスズの手を取ると、一ノ瀬は少しだけ力を入れて自分の方へ引っ張る。

そして立ち上がってくれた彼女の体を、ふわっと抱き締めるのだった。


「お礼言うのはこっちの方だよ。急に押しかけて来て一方的に喋りまくってさ、きっと驚かせたと思う。

 でも最後まで聞いてくれて、こうやって俺のワガママも許してくれて…本当ありがとな」

「そんな、全然…!」

「答え出たら、返事聞かせてくれる…?」

「もちろん…!少し時間もらっちゃうけど…」

「平気!俺待つの得意だから」

「そうだったかな…?」

「そう!…スズを好きな気持ちはずっと変わんねぇから、ちゃんと待てる!」

「うん…!ありがとう」

「俺も、ありがとう。……大好き」


耳元で囁かれたその言葉は、華厳の滝の時と同じぐらい熱を帯びていた。



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