12時を少し過ぎた頃、一行は無事JR松本駅に到着する。

身軽な男性陣に対し、スズは中ぐらいのキャリーケースをガラガラと引きながら駅前へと出てきた。

全員普段とは違うラフな服装であり、無陀野にいたっては伊達メガネ付きだ。

当然のことだが、彼の右頬にある特徴的な刺青タトゥーもメイクでしっかり消してある。


「松本、結構栄えてんじゃん!」

「迎えが来るのか?」

「その予定だが…すでに3分過ぎている…無駄な時間だ」

「私、タクシー拾って来ましょうか…!」


ロータリーを前に立ち尽くしている4人は、そんなやり取りを交わす。

遊摺部のために少しでも早く目的を達成したいことに加え、今は無駄が大嫌いなボスが一緒なのだ。

秘書の立場としては、一刻も早く移動を開始したいところ。

だが動こうとしたスズを止め、無陀野はある事実を教え子達に伝えた。


「お前たちに1つ伝えておくことがある。さっき校長から連絡が入った」

「校長先生から…」

「あぁ。松本には鬼神の子がいるらしい」

「えっ!3人目だ…!」

「そうなるな」

「迎えはいつ来るんだ?」

「なんかあっち騒がしくね?」


新たな出会いに目を輝かせるスズに対し、一ノ瀬・皇后崎コンビはそこまでの興味を示さない。

むしろ突然始まった駅前の騒ぎの方が気になるようだった。

そちらに寄って行く同室コンビの後ろを無陀野と共について行ったスズは、そこで話題に上がった人物と出会うことになる。


「ははは!お前今日も変な色してんなぁ!こんなところにずっと立っててもつまんないだろ!」

「なんだあいつ…上裸に裸足で像に乗ってんぞ」

「お前に似た馬鹿は地方にもいるんだな」

「殺すぞ!」

「確かに変わった子だけど、悪い人ではなさそう…!」

「あれが迎えだ」

「え!?あれが!?」

「鬼神の子、雷の能力を持つ"雷鬼"…雷殿影由」

「あれが鬼神の子で案内人…」

「やっぱり鬼神の子って個性が強いよね」

四季こいつを筆頭にな」

「ふふっ。うん!」

「どういう意味だよ!」


スズたちがワイワイと話している横で、無陀野は一時的に無の境地に入る。

合流する人物のトリッキーさは、それほどのレベルであった。

と、その彼がようやく4人の存在を認識し、こちらへ近寄って来た。

早速スマホ片手に男子高校生らしいやり取りを始める一ノ瀬・皇后崎・雷殿の3人。

そんな彼らを微笑ましく見つめるスズとは対照的に、無陀野の表情は冴えない。


「…スズ」

「はい!」

「悪いが俺の傍から離れないでくれ」

「へ?」

「イライラし過ぎて、お前がいないと頭がおかしくなりそうだ」

「ふふっ。了解です!どんな状況でも離れたりしませんから、いつでも頼ってください!」


満面の笑みで頼もしいことを言ってくれる秘書に、無陀野の纏う空気が少し軽くなる。

スズの腰にそっと手を添えて少し自分の方へ引き寄せると、彼は小さくお礼を伝えた。

そのスマートな振る舞いにドキドキする女子の頭をポンと撫でてから、無陀野は男3人の元へ足を向ける。

纏う空気は、再び重いものに変わっていた。


「やべぇ…キレてんぞ…」

「当たり前だろ…」

「お前のせいだぞ。謝れ!裸族!」

「…あんた仮面みたいに無表情だなー」


そう言って、雷殿はあろうことか無陀野の頬をムニッとつまんだのだ。

これには一ノ瀬・皇后崎はもちろん、スズですら血の気が引いた。

普通の状態でもブチ切れ案件なのに、今はイライラMAX状態。

現状でこの行為が許されるのは、相手がスズの場合だけであろう。

故に"笑った方が楽しいぞ!"と無邪気な笑顔を見せた雷殿も、無陀野の無言の圧力に負け謝罪の言葉を口にすることになった。

カタカタと震える鬼神の子に駆け寄ったスズは、落ちていた彼の服を手渡す。


「ら、雷殿君!とりあえず服着よっか…!ねっ?」

「うん…」

「ほら…さっさと記憶覗ける鬼のところ行こうぜ!」

「そうだね…!私、タクシー乗り場行ってくる」

「え!?松本初めてだろ!色々連れてってやるよ!」

「やめろ、お前!せっかくスズが機嫌取ってんのに、これ以上ムダ先怒らせんな!」

「でも万は行っていいよって言ってたぞ?」

「万さん?」「誰だよ、万って!」

「万が俺らの目的の"記憶を覗ける鬼"だ」

「俺の友達ぃ!」


元気を取り戻した雷殿が勢い良く見せてきたスマホには、万なる人物からのメッセージが表示されていた。

"雷殿と遊んであげてください!"

揃ってスマホを覗き込んだスズと一ノ瀬は、判断を仰ぐように担任を振り返る。


「……先方の要求なら仕方ない…ただ目的地に向かいながらだ」

「(今、絶対心の中で舌打ちした!)」

「(先生、口元がへの字になってる…)」

「よっしゃー!ついて来い!」

「服脱ぐな!」


そうして一行は、条件付きの観光へと出発したのだった。



to be continued...



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