イートインスペースとして用意されたベンチに並んで座り、ジェラートを楽しむ2人。

素材を生かしたほど良い甘さと滑らかな舌触りに、スズの表情は緩みっぱなし。

そしてそんな彼女を見つめる男子高校生の顔も、また同じぐらい穏やかなものだった。


「美味しいね!」

「あぁ。甘すぎなくてちょうどいい」

「ね〜!」

「…こっちも食うか?」

「うん!…あ、ス、スプーンもう1つもらってくる…!」

「別にいいよ。そういうの気にしねぇから」

「本当に平気…?」

「スズとだったら平気」

「!」

「ふっ。ほら、早くしねぇと溶けるぞ」


ドキドキしながら返事をして、使っていたスプーンで皇后崎が持つジェラートを掬いとるスズ。

口に広がる1つ目とは違う甘さに、彼女の表情はまた明るくなった。

そうしてしばらく、青春コンビは2つのジェラートを分け合いながら楽しい時を過ごしていた。

もうすぐで食べ終わりそう…というタイミングで、不意にスズが問いかける。


「迅ってさ、こういうデートみたいなの…慣れてるの?」

「はっ!?な、何だよ急に…!」

「いや、だって…アイスの味選ばせてくれたり、奢ってくれたり…すごく優しいしスムーズだなって思って」

「慣れてるわけねぇだろ。…初めてだわ」

「そうなの!?」

「だから、お前が喜んでくれてんのか…不安だった」

「迅…」

「まぁ、今までの表情見る限り…成功したみてぇだけどな」


そう言って優しく頭を撫でてくる皇后崎に、スズは頬を染めながら満開の笑顔で肯定の言葉を返した。

彼女の愛らしい姿が、皇后崎から理性を奪い取ろうとしたその時…突如店の外が騒がしくなる。

耳を澄ませば、何やら女子の黄色い声が。


「キャー!」

「あの!うちのたい焼き食べてください!」

「うちのアイスも!」

「悪いが1日の摂取カロリーは決めている」

「無人先生、また声かけられてる…」


アイス屋から顔を出すと、担任である無陀野が数人の女性たちに囲まれているのが見えた。

スラッとした身長に長い手足、服の上からでも分かる筋肉質な体、眼鏡でより強調されるクールな印象…

元より整った顔にこれだけのものが乗っかっていれば、女性の気を惹くのも納得だろう。


「助けに行かなきゃ…!」

「別にほっときゃいいだろ」

「そうはいかないよ!ただでさえ予定通り行かなくてイライラしてるんだから、これ以上ストレスかけたら先生発狂しちゃう」


だが助けに行くにしても、何と呼びかけたら良いものか…

迂闊に鬼である無陀野の個人情報を漏らせば、食いつくのは女性たちだけではない。

ではどうするか…スズは考えた末、ある単語で乗り切ることに決めた。


「よし!……ボスー!!」

「(スズの声…?)」

「そろそろ移動のお時間です。行きましょう!」

「! …あぁ、分かった」


スズの意図を瞬時に理解し、女性たちの写真攻撃を回避しつつ彼女の方へ足早に向かう無陀野。

横に並ぶと、安心したような表情を見せる秘書にお礼を伝えた。


「(俺の情報を何一つ漏らさないようにするあたりはさすがだな)ありがとう、助かった」

「良かったです!でも先生はもっとご自身のことを理解しないとダメですよ?」

「どういう意味だ?」

「先生はカッコいいんです。自分のお顔が整ってることを、ちゃんと頭に入れておいてください」

「…」

「…先生?聞いてます?」


いつもみたいな即レスがないことを不思議に思い顔を向ければ、そこには珍しくボーッと考え込んでいる担任がいた。

失礼なことを言ったか?と少し焦るが、怒っているような空気は感じない。

普段と違うその様子を見つめていると、当の本人がポロっと言葉を漏らす。


「…スズから、初めてカッコいいと言われた気がする」

「初めてじゃないですよ〜前にもお伝えしてます」

「…そうか」

「どうかしました?」

「いや…前に言われた時のことは、あまり記憶がないんだが…」

「?」

「…今日のは…なんというか…嬉しかった」

「えっ」

「スズにカッコいいと言われるのが、嬉しいと思うようになった。だから今日のことはきっと忘れない。ありがとう」


そう言いながら微笑みかけてくる無陀野に、スズは心の中で頭を抱える。

無自覚イケメンの言動は、まだしばらく治りそうもない。


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合流した5人は、再び雷殿の案内で街中を散策する。

楽しい時間はあっという間とよく言われるが、まさにその通りで…

辺りはすっかり茜色に染まっていた。


「楽しかったー!スズ、さっきも甘いもの食べてたね!」

「だって雷君が教えてくれるお店どこも美味しそうなんだもん」

「えーダメだった?」

「ううん、すっごい楽しかった!ありがとう!」

「へへっ!良かった〜!」


この数時間ですっかり打ち解けたスズと雷殿は、姉と弟のように手を繋ぎながら歩いている。

それを羨ましそうに見ている男子高校生を含め、一行はようやく目的地へと辿り着いた。

"人形の緑屋"と書かれたお店へズンズンと入って行く雷殿を、スズたちは慌てて追いかける。


「やっほー!」

「おい勝手に店入るな!」

「ここに案内すればいいんでしょ?」

「え?」

「もしかしてここが目的地?」

「人形屋にいるのか?」

「記憶覗ける鬼って、滅多に会えない婆さんなんだよな?」

「それは僕のお婆ちゃんですね」

「「「!?」」」

「初めまして、万昴と申します。雷と遊んでくださってありがとうございます」


疑問ばかりが浮かぶ子供組の声に答えながら現れたのは、物腰の柔らかな男性であった。

雷殿とは正反対の大人っぽい雰囲気に違わず、話しっぷりも簡潔明瞭だ。


「それと最初にお伝えしますが、お婆ちゃんは今年の頭に亡くなりました」

「そんな…!」

「死んだのか?」

「じゃあ遊摺部は…!」

「ご安心ください。記憶を覗く力は僕にもあります。

 羅刹の校長から、ご友人のお話は聞いてます。力をお貸しすることは全然かまいません」

「じゃあすぐ…!」

「しかし…今はここを離れるわけにはいきません」

「なんでだよ!」

「何か要求があんだろ?」

「そうなんですか?万さん…」

「はい…しかしこれは鬼だけの問題ではありません。皆様にはここ松本市を…いや…松本に住む全ての者を救って頂きたい」


真剣な眼差しで伝えられた内容は、突然聞かされるにしては規模の大きなものだった。

すぐには羅刹に帰れない気配を感じながら、スズたちは夜を迎えようとしていた。



to be continued...



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