迷った末、ちょっと血がついてる席の人物に頼むことにしたスズ。

怒るところが想像できないということ、いつでもポジティブで前向きな人物であることが決め手となった。

他のメンバーがワイワイしている時を見計らって印南の元へ行き、例の紙を見せながら事情を説明する。

聞き終えた彼は、二つ返事で受け入れてくれた。





膝に乗って向かい合わないと出られない部屋 -印南編-





「スズはこういう試練に日々立ち向かってるのかい?」

「いえ、全然…!ただ忘れた頃に急に発生するので、いちいち驚いてしまって…」

「それでも毎回ちゃんと乗り切ってることは素晴らしい!」

「へへっ。ありがとうございます!幽先輩と話してるといつも元気になります!」

「僕もスズの笑顔を見てると気持ちが明るくなるんだ。だから今日来てくれてすごく嬉しいよ」


ポジティブな言葉が飛び交う空間はとても穏やかで、2人は互いに笑顔を向ける。

ついミッションのことを忘れそうになるが、そういうわけにはいかない。

どちらもまだお腹が空いているので、一緒に食べられる体勢にしようということになった。

印南が右足を胡坐にし、もう片方を立てた状態で待機する。そうすることで出来上がる空間に収まるよう、スズは横向きで座った。

横向きなのは、それで向かい合ってるということにするためだ。


「これなら幽先輩もご飯食べられますね!」

「うん。あ、食べる時に寄りかかるとこがないとキツイと思うから、僕の足に体重かけていいからね」

「えっ、疲れませんか?」

「大丈夫!このぐらい余裕さ!」

「ふふっ。ありがとうございます!」


元気よくGoodポーズをする印南に、スズも思わず笑顔になる。

5人の中でダントツに背が高い彼の手足は長く、それに囲まれている状態というのは何とも言えない安心感があった。

それに加え、あまり色っぽい雰囲気になっていないこともあり、スズは調子に乗って印南の胸元に頭を寄せた。


「! スズ?」

「こうすると先輩に守られてる感じがして安心します!」

「そう言ってもらえると嬉しいな。でも…」

「ん?」

「あんまりそういう可愛いことされると、手出したくなっちゃう」

「えっ!」


普段の前向きポジティブな印南からは想像もできないほど色気のある声音や発言に、スズはバッと彼を見上げる。

そこには優しい顔で微笑みながら、左手で自分の頭を撫でてくれている先輩の姿があった。

意外とゴツゴツした手の感触や、病弱とは思えない胸筋などを意識しだすと、途端に顔に熱が集まるスズ。

上げていた顔を手元の卵焼きの方へ向け、食事に集中しようと頑張っていたのだが…


「スズ」

「は、はい!」

「卵ついてるよ?」


そう言いながらスズの口元についた卵焼きの欠片を優しく取ると、印南はそれをひょいと自分の口へ入れる。

彼の自然でスマートな行動に、スズの心臓はドキドキとうるさくなるばかりだ、

周りから聞こえる"本当に手出すなよ〜"という声も、今の彼女には聞こえていない様子。

と、不意に印南の動く気配を感じて、スズは再び顔を上げる。

視線の先では、先輩が慣れた手つきで髪を結んでいた。


「ゆ、幽先輩って髪結ぶんですね…!」

「うん。暑い時とか、食事中に邪魔になる時とかにね」

「スズちゃん見るの初めてだったっけ?」

「はい…!」

「飲み会の時とか割と結ぶこと多いよな」

「そうなんですね…!」


朽森の発言に相槌を打ちながら、改めて印南に目をやる。

男性にしては長めの髪はキレイに整えられており、よく見れば女子が羨むようなサラサラでツヤツヤなものだった。

サイドの後れ毛やふんわり香るシャンプーの匂いもまた実に色気がある。

魅入られたように目元にかかる髪へ手を伸ばしたスズだったが、その手は印南によって掴まれた。


「そんなに気になる?僕の髪」

「あ、す、すみません!すごくキレイだったのでつい…!」

「ありがとう。でもこれ以上はダメだよ。…さっきも少し言ったけど、僕今いろいろ我慢してるから」

「!」

「部屋で2人の時に、たくさん触って?」


妖艶に微笑む印南に、スズは完全にノックアウト状態。

彼の専売特許である吐血を何とか堪えながら、夜は更けていくのだった。



fin.



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