迷った末、某練馬区隊長の愚痴が聞こえる席の人物に頼むことにしたスズ。
隣との仕切りに使う衝立の影から静かに声をかければ、猫咲は少し面倒そうにしながらもこちらへ来てくれる。
そして例の紙を見せながら事情を説明すると、一転してニヤニヤしながら了承してくれるのだった。
膝に乗って向かい合わないと出られない部屋 -猫咲編-
「スズにこんなの仕掛けるなんて、暇な奴がいんだな」
「失礼なことを言われてる気がしますが、本当そうですよね。何で私なんでしょうか」
「…反応が面白いからじゃね?」
「そうですか?そんなことないと思うんですけど…」
紙を見つめながら首を傾げるスズを見つめながら、何やら思案している猫咲。
それから不意に彼女の顎に手を添え、クイッと持ち上げる。
突然目の前に現れた整った顔に、スズの頬は一気に赤色に変わった。
「その反応を面白いって言うんだよ」
「は、波久礼先輩…!」
「ふっ。ほら、早く終わらせるぞ」
「あ、そうだった…お願いします!」
アタフタする後輩の頭をポンと叩いてから猫咲は腰を下ろし、テーブルに寄りかかった状態で待機する。
だがスズが呼吸を整え振り返ると、そこには片膝を立てたままの彼がいた。
「ちょ、ちょっと先輩!」
「ん?どうした?」
「どうしたじゃないです!それじゃ…す、座れないじゃないですか!」
「そんなに座りてぇの?」
「そういうことじゃなくて…!」
「な〜んだ。そういうことじゃないなら戻ろっかな〜」
「ダメです!す、す、座りたいです…!」
「(相変わらず満点の反応だな。おもしろっ)しょうがないですね〜どうぞ?」
楽しそうにそう言いながら、猫咲はようやく足を伸ばして座る。
赤く染まる頬をパンパンと軽く叩いて気合いを入れるスズを、彼は余裕の顔で見守っていた。
恐縮しながら太もも辺りに腰を下ろしてきた彼女に、また猫咲のイタズラ心がウズウズする。
「波久礼先輩、大丈夫ですか…?」
「平気。…重いけど」
「なっ!そ、それは思っても言わないでくださいよ!」
「わりぃわりぃ。つい出ちまった」
謝っているのは言葉だけで、表情や雰囲気は全くその感じではない。
むしろ先程よりも楽しそうに、赤い顔の後輩をからかっていた。
だがスズもやられてばかりではない。
一度重いと言われたのなら、いっそのこともっと体重をかけてやろうと猫咲の首に手を回し抱きついた。
「(はっ!?こいつ、何して…!)」
「どうですか!?これならもっと重いでしょ!」
「お、おまっ!離れろ…!」
「嫌です〜女の子に重いって言った罰ですよ!」
「…思ってねぇよ、重いなんて。冗談で言ったに決まってんだろ…!」
「へ?」
「だから離れろバカ…」
さっきまでと明らかに様子が違うことを不思議に思い顔を覗き込めば、先輩の顔は真っ赤になっていた。
散々自分をからかって来て、今の今まで余裕たっぷりだったのに一体何が?
スズはそう考えを巡らせ、すぐに1つの答えに行きつく。
「先輩もしかして…照れてます?」
「…照れてねぇわ」
「そんな赤い顔で言われても説得力ないですけど」
「うるせぇな…!スズのせいだろ…お前が、急に抱きついてくるから」
「えっ、可愛い」
「可愛いって言うな!」
「へへっ」
「…あーもう!!」
穏やかに微笑むスズをチラッと見やった猫咲は、これ以上顔を見られないよう、頬を染めたまま彼女を強く抱き寄せた。
こうなるとスズの方もまた顔の赤さがぶり返す。
同じ速さで動いている互いの心音を感じながら、猫咲が静かに話し始めた。
「……何で俺だったんだ?」
「えっ?」
「印南とか馨とか大我とか…もっとスムーズに終わりそうな奴いただろ」
「…波久礼先輩が一番、こういうの楽しんでくれるかなって、思って…
誰にお願いしても絶対緊張しちゃうから、それなら少しでも楽しくできればいいなと思ったんです…!」
「ふーん…変な理由」
「うっ…」
「でも…何かめちゃくちゃ嬉しくなってる自分がいてムカつく」
「嬉しい…?」
「…スズに選ばれて嬉しいってこと!1回で分かれよな」
照れ隠しでスズの鼻をつまんだ猫咲は、そう言ってふっと笑いかける。
先輩の新たな顔を知れて、彼女もまた鼻をさすりながら笑顔を見せるのだった。
fin.
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