淀川との通話を終え戻ってくると、一ノ瀬・皇后崎コンビの方も事が進んでいた。

まずは雷殿のSNSアカウントに、わざと一ノ瀬を写り込ませた写真を上げる。

そうすることで、常に鬼の動向を監視している桃の目をこちらへ向けるわけだ。

鬼神の子が街に現れたとあれば、黙って見過ごすわけにはいかない。

こうして狙い通り、桃太郎が街へと繰り出してくる状況が出来上がった。





第90話 再生可能兵器





「考えましたね。雷のピンスタに四季さんを写りこませるなんて」

「"四季を使う"ってこういうことだったんだ!」

「あぁ。松本で目撃されれば、動かざるをえないだろ」

「俺の存在に感謝しろよ?」

「この後は…」

「無視すんじゃねぇよ!」

「ふふっ」

「桃の動向を確認する。地下を使いたいが…スズ」

「はい!真澄さんに連絡して、周辺の地図や地下通路を教えてもらいました。準備するのに良さそうな場所があるので案内します!」

「ありがとう。助かる」

「すげー!さすがスズ!」

「相変わらずいい仕事するな」

「へへっ。ありがと!」

「んじゃな!行ってくるわ!」


一ノ瀬が元気よくそう伝え、4人は雷殿・万ペアと一旦別れるのだった。


------
----
--


スズの案内で辿り着いた空間は地下にしてはキレイに整備されており、高さも十分に確保されていた。

もちろんすぐ横には水路があるため足場は狭いが、それでも支度を整えるには何の問題もない。

ここに来てようやく、スズがずっと持ち歩いていたキャリーケースの謎が解ける。


「えっ、その中身って俺らの制服だったの!?」

「うん!何かあった時のために、先生と相談して持って来てたんだ」

「言ってくれりゃ自分で運んだのに」

「ありがとう!でも何もなかったら邪魔になっちゃうでしょ?大して重くもなかったから平気平気!

 ってことで、2人ともパパッと着替えちゃって!靴もここ置いとくね」


きちんと畳まれた制服を手渡され、同室コンビはしばし動きが止まる。

確かにキャリーケースだから重さは感じないだろうが、常に片手が塞がっているのは楽だとは言い難い。

何をする時も傍にあるのはやはり邪魔だろうし、置き忘れないよう気を張っている必要もある。

それを微塵も感じさせず、いつもと変わらない笑顔で自分たちに接していたスズという少女。

彼女への想いがまた大きくなるのを感じながら、一ノ瀬と皇后崎は着替え始めるのだった。


「先生も着替えますよね」

「あぁ。悪かったな、ずっと持たせて」

「全然です!何かボスの旅行について行く秘書みたいで楽しかったですし」

「ふっ、ありがとう」

「いえ!あ、眼鏡も預かりますね」


そうして数分後には、スズも含め全員が見慣れた姿に戻った。

と、キャリーケースを整理しながらふと目を向けた先で、無陀野が自分の顔を擦るような仕草をしていた。


「あー!無人先生、ストップー!」

「ん?どうした?」

「メイク!そんな落とした方したら肌が荒れちゃいます…!」

「別に気にしないが」

「気にしてください!先生のお肌すごくキレイなんだから、大事にしなきゃダメです。

 ちゃんとメイク落としシート持って来てありますから!…少しお顔触ってもいいですか?」

「あぁ」


そう言って、目を閉じたままスズの方へ顔を近づける無陀野。

間近で見る彼の肌はキメが整っており、普段戦場で血を浴びているとは思えない程つるんとしていた。

スッと通った鼻筋も、形の良い唇も、目元にかかる前髪ですら、どれもこれも女性の目を奪うものだった。


「(本当カッコいい顔してるな〜これはモテるわけだ。……先生とキスする時ってこんな感じなのかな)」

「スズ?」

「(いやいやいや、何考えてんだ私は!真澄さんのせいで、変なこと考えちゃうじゃん…!)」

「…スズ、終わったのか?」

「あ、いえ、まだです!す、すみません…!すぐ終わらせます!」


優しくシートを肌にあて、丁寧にメイクを落とす。

1分とかからない単純な作業にも関わらず、スズの手はわずかに震えていた。

特別な感情を抱いている相手のそんな変化を、無陀野が見逃すはずはなかった。


「お、終わりました!お時間取らせてすみません…!」

「いや、ありがとう。それより…手が震えてなかったか?」

「えっ、あっ、いや、そんなことは…!」

「(随分動揺してるな…真澄に何か言われたか?あいつが言いそうなことと、今の状況を考えると…)…キス」

「えっ!?」

「(当たったか。…しばらく接近禁止だな)真澄とどんな会話をしたか知らないが、全部をまともに受け取るなよ?」

「は、はい…!あの…何で突然真澄さんの名前が…」

「俺とこの距離になってから急に動揺し始めただろ?仕事モードの時はあんなに落ち着いてたのにだ。故に仕事関係じゃないと思った。

 次に、メイクを落とすという行為のために今俺たちはかなり近づいていた…キスができるぐらいに」

「!」

「そこに"真澄"という要素を繋げると、やけにしっくり来た。だから、あいつから"キス"に絡んだ話が出たんじゃないかとあたりをつけた」

「お、お見事です。何か急に、真澄さんとの会話を思い出しちゃって…

 無人先生はキスする時こんな感じなのかなとか考えてしまいました…すみません!任務に集中します!」

「分かってるならいい。…ただ1つ言っておく」

「はい」

「…俺とのキスは、お前が自分で確かめろ」

「…へ?」

「まぁあいつらがいるような状況ではしないがな」


てっきりお説教が来るのかと思っていたスズは、意外な方面からの発言に思わずポカンとしてしまう。

向けられた言葉を脳内で消化し終わった途端、彼女の顔は真っ赤になっていた。



- 208 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ

第2章 目次へ

第3章 目次へ

第4章 目次へ

第5章 目次へ

第6章 目次へ

短編 目次へ

章選択画面へ

home