一方、ボールを手に入れた皇后崎は、ゴールを目指してひた走る。
時間的にはギリギリだが、まだ可能性は残っていた。
だが足を速める彼の脳内には、2人の人物の声が聞こえていた。
"助けてやるから協力しろ!"
"縄ほどくね"
"するよ。だから早く行って!"
"ゴールしちまえぇ!"
今自分がこうしてボールを持ってゴールへ走っているのは、スズと一ノ瀬の行動があったればこそだ。
そう思うのと、皇后崎の足が来た道を戻るのは、ほぼ同時だった。
突然戻って来た彼の姿に、スズと一ノ瀬は目を疑う。
「戻ってきたぞ!?究極の方向音痴ですか!?」
「えぇ!?私、道案内しようか!?」
「勘違いするな!二度もお前らに借りを作るのが嫌なだけだ!
俺は退学になろうが!1人で目的を成し遂げる!だから!お前が!ゴールしろ!」
「(くーっ!皇后崎君、やるじゃん!男同士の友情って最高!)」
勝手に盛り上がっているスズを他所に、皇后崎は更にスピードを上げてこちらへ向かって来る。
と、そんな彼と一ノ瀬の間に突如小さな生き物が割り込んでくる。
それに気づいたスズは、皇后崎を止めるため慌てて彼の前に飛び出した。
「皇后崎君、ストップー!」
「! 馬鹿…!どけ!」
「ひっ…!」
皇后崎も小さい生き物には気づいていた。
だがそれよりも前に飛び出してきたスズのことは、避けることも止まることもできなくて…
多少勢いは衰えていたものの、皇后崎は走ってきたスピードのままスズにぶつかった。
倒れ込む前に何とか踏みとどまった皇后崎は、後ろ向きに倒れかけているスズの手を掴み引き寄せる。
「ビックリした…!」
「こっちのセリフだ。急に出てくんな!」
「ご、ごめん…逆に危なかったね」
「はぁ…」
「でも引っ張ってくれてありがと!」
「…別に」
「おい、皇后崎!いつまでそうしてんだよ!早く離れろって!」
いつまでもスズと近距離で会話を続ける皇后崎に痺れを切らし、一ノ瀬はそう叫びながら自分の天使を彼から引き剝がす。
どこも汚れていないのに、無駄に自分の制服をパンパンと払ってくれる一ノ瀬に、スズは楽しそうな笑みを見せた。
そうしてスズの制服を払いながら、一ノ瀬はようやく足元にいる小さい生き物に目を向ける。
「つーか、なんだこの丸っこいの!」
「私も初めて見た」
「待て!この子は獏速通信の獏。名前は夢喰…通称むっくんだ。通信履歴を残さず素早く情報を運ぶ」
「何かあったんでしょうか…」
「(この子が来るってことは緊急か…?)そうかもしれない。失礼する」
一気に不安そうな表情を見せるスズに少し目を向けてから、無陀野は片膝をついてむっくんが背負うスピーカーに集中する。
スズ達3人も、同じように耳を傾けた。
『こちら鬼機関京都隊!鬼機関京都隊!』
「京都…!」
『桃太郎機関による襲撃を受けている!至急応援を頼む!』
「スズ、お前は先に京都に向かえ」
「あ、えっ、は、はい…!」
「スズ大丈夫か?顔色悪いぞ?」
一ノ瀬の心配そうな声に反応してスズを振り返った無陀野は、彼女が小刻みに震えているのに気づく。
静かに立ち上がりスズの前まで来ると、無陀野は両手で彼女の頬を包み込む。
それは、先程までの厳しい言動が嘘のように優しい触れ方だった。
「俺の目を見ろ、スズ」
「な、無人先生…」
「落ち着け。連絡が来るってことは、まだ生きてる奴らがいるってことだ。お前が行けば、助かる命がある。分かるな?」
「…はい。ふ〜…すみません。もう大丈夫です…!」
「ん。俺らもすぐ後を追う。それまで頼むぞ」
「了解です!」
無陀野の言葉で落ち着きを取り戻したスズからは、先程までの震えや不安な感情が消え去っていた。
援護部隊としての使命を全うするべく、彼女はものすごいスピードでその場を後にする。
その背中を呆然と見送った一ノ瀬が、スズの抱える事情を知るのは、翌日の朝のことだった…
to be continued...
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