1本の電話によって、静寂は突然破られた。
そして一度鳴り響いたそれは、止まることなく鳴り続ける。
最初の電話で病院を飛び出したスズは、自分の目を疑った。
京都で見たあの気色悪い化け物が我が物顔で街をうろつき、次々に一般人を襲っている異様な光景…
リュックの紐をギュっと握り、スズは意を決して足を踏み出した。
第91話 春雷 / 疾炎迅雷
同時刻。
バラけて桃の相手をしていた男3人もまた、この異様な事態を察知していた。
屋上に立ち、様子を伺いながら話しかけてくる一ノ瀬の声がスズの耳に入ってくる。
『京都の化け物だよな!?なんでここに!?』
『今は一般人への被害を抑えるぞ』
『どれくらい数がいるかもわかんねぇのにかよ…』
『スズ、街の状況はどうだ?』
「大パニックです…!時間帯的にまだ人通りが多くて、その人たちが片っ端から襲われてます。
京都で見たのよりも凶暴性が増してるのか、一撃で致命傷を与えていて…血を使っても助けられない人が多いです」
『わかった。四季、お前はスズから目を離すな。アグリを倒すのはもちろんだが、スズが治療に集中できる環境を作れ』
『了解!』
「ありがとう、四季…!お願いします!」
『任せろ!…絶対俺が護るから』
「うん!」
そうして一ノ瀬は屋上から街全体を見渡し、人を襲ったり、スズに近づいてくるアグリを次々に狙撃していく。
無陀野と皇后崎もまた同じように、あちこちに出現する化け物を倒していたのだが…
なにせ数が多く、すべてに手が回らない。
スズの治療や病院の受け入れにも限界があり、多くの人々が命の危機に晒されていた。
『人手が足りねぇよなぁ』
「そうだね…どれだけ治療しても、アグリが減らないとまた犠牲者が出ちゃう…」
そう話していた直後、月明りとは別の光が空に輝きを放った。
治療の手を止め見上げた先に、スズは見覚えのある人物を発見する。
「あれって…!」
雷鬼状態となった雷殿は両手を振りかぶると、鞭のような雷を複数箇所に落とす。
そのうちの1つが目の前にあったポストに直撃し、威力に驚いたスズは思わず目と耳を塞いだ。
恐る恐る辺りを見渡すと、アグリだけでなく様々な物や場所にも雷が落ちていた。
「(ビックリした〜あんまりコントロールは上手くないのかな…?)」
「スズー!」
「うわっ、雷君!?」
「大丈夫だった〜?」
名前を呼ばれたかと思えば、次の瞬間大きな物体に抱きつかれるスズ。
連続で来る衝撃に、彼女の脳内は一時的にパニックを起こす。
深呼吸で落ち着きを取り戻してから顔を上げると、満面の笑みでこちらを見つめる雷殿がいた。
「雷君、来てくれたんだ…!」
「うん!万がね、本気でやって来ていいよって言ってくれたんだ!」
「(万さんも腹括ったんだね)そっか!人手が足りなくて困ってたんだ。ありがとう!」
「へへっ。どういたしまして!スズは何してたの?」
「ケガした人たちの治療だよ。私の血はね、体の部位を造る力があるんだ」
「えー!すごーい!」
そう言って目を輝かせる雷殿に見守られながら、スズはまた1つ尊い命を救った。
そして到着した救急車へ患者を運び終えると、雷殿が不意に彼女を抱きかかえる。
「ちょ、ちょっと雷君!?」
「さっき四季たちのこと見つけたんだ!皆一緒の方が楽しいから、スズも行こっ!」
「…へ?」
言われた内容を咀嚼する前に、スズは空へと旅立って行った。
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