片手にスズを抱えたまま、雷殿はもう片方から一筋の雷を生み出した。
そして急な高さにビビりまくる女子に笑いかけてから、彼はその雷に乗って高速移動をする。
高さに加え、尋常でない速さまで感じたものだから、スズは叫びながら雷殿の首にギュッとしがみついた。
数秒後に降り立ったビルの屋上には既に先客がいた。
「あぶねー雷落ちてきたぞ!」
「当たりゃよかった」
「あぁ?」
「なんだよ」
「…え?あ!雷殿!」
「やっぱりいたー!ほらスズ、着いたよ!」
「待って…腰抜けた…」
「お前か、雷!当たるところだったぞ!つーか、スズに何してんだよ!」
「へへ、ごめん!」
「スズ、立てそうか?」
「何とか…!」
鬼神の子同士のやり取りを聞きながら、スズは皇后崎の手を借りて立ち上がった。
思いがけず近づいた距離に、皇后崎の手は自然と彼女の腰に回る。
そのまま少し自分の方へ引き寄せれば、驚き半分、恥ずかしさ半分な表情で自分を見上げてくるスズ。
「(このまんま抱きしめてぇな…)お疲れさん」
「あ、うん!ありがとう!迅もお疲れ様。ケガしてない?」
「平気。まぁケガしてもお前がいるし、そう思ってると逆にケガしねぇから、どっちにしても無事だわ」
「あははっ!そっか!良かった〜」
「うぉい!皇后崎!何、スズとイチャイチャしてんだよ!離れろ!それどころじゃねぇぞ!」
「ん?…あーなるほどな」
「スズは隠れててな?いったんこいつら…」
「片付けるか」
いつの間にか4人の周りには、何体ものアグリが集まって来ていた。
スズが物影に隠れたのを確認すると、男性陣は早速動き始める。
一ノ瀬は離れた箇所にいる敵への射撃、皇后崎は近接担当、そして雷殿は再び空へと舞い上がった。
電信柱を器用に使い、縦横無尽に松本市内を動き回る雷殿。
いつも自分たちのために戦ってくれる彼に、市内の住民は口々に感謝と声援を送っていた。
その光景は美しく、彼はさながら守り神のようであった。
そうして最後の1体を倒し終わると、雷殿は元気よく屋上へ戻って来た。
「すげぇ速さ…」
「スズーただいまー!」
「おかえり!」
「今のでこの辺のやつは倒したな」
「助かったぜ」
「へへー!」
「来た時も今もすげぇ速い移動してたけど、どうやってやんだ?」
「えー?わかんない」
「わかんねぇって…もう一回やって見せてくれよ」
一ノ瀬にそう言われ、雷殿はスズを気絶寸前に追い込んだあの移動術を披露する。
屋上の端から端までを瞬間的に移動するこの技は雷を使ったものであり、鬼神の子だからこそできるものであった。
だがやり方を聞いても、擬音ばかりの説明でスズと皇后崎はチンプンカンプンだ。
「ビュンってやってバババって感じ!」
「なんだその馬鹿みてぇなアドバイス」
「それってボワッてやってズバッて感じか?」
「何言ってんだお前も」
「ふふっ。鬼神の子同士だと通じるのかな?」
「俺はビュン!」
「…」
「そんなのでできるわけ…」
呆れたように言葉を漏らした皇后崎の思いとは裏腹に、一ノ瀬は次の瞬間同じことをやってのける。
自分で出した炎に乗って移動する姿は、まさに先程の雷殿を見ているかのようだった。
「四季すごい!もう出来るようになったの!?」
「まぁね!これでスズが危ねぇ時にすぐ駆けつけられる」
「わ、私のことは後回しでいいから…!」
「やだ。…護るって言ったじゃん」
「…うん!ありがとう!」
「へへっ」
「四季ってさー」
「ん?」
「スズのこと見てる時、目がキラキラしてる!」
「そうか〜?」
「スズのこと好きなのー?」
「えっ!?ちょ、雷君、何言って…!」
「うん、すげー好き」
「四季まで…!」
「だって本当のことだし、隠す必要ねーもん」
「そう、かもしれないけど…!」
「そっかー!俺もね〜スズのこと大好きだよ!」
「バカ!お前の好きと俺の好きは違ぇんだよ!」
真っ赤な顔のスズを差し置いて、鬼神の子たちはギャーギャーと言葉を交わす。
実に楽しそうな一幕だが、1人浮かない表情の男がいた。
「(クソッ…四季に先越された…)」
2人の関係性が変わっていることは、新幹線の中から薄々気づいていた。
スズの一ノ瀬に対する態度が、明らかに今までのそれとは違ったから。
その理由が、今目の前でハッキリと提示された。
握った拳に浮かぶ血管は、皇后崎の想いの強さを表していた。
to be continued...
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