「迅のお父さん…?」

「正解〜」


不意に返ってきた言葉に、スズはバッと後ろを振り返った。

背後に突然現れた桃太郎・桃引鐙。

唇に開いたピアス、光のない目、不自然に上がる口角。

そのすべてが、一瞬でスズに恐怖心を与えた。


「(この人はヤバイ…)」


本能的にそう感じ距離を取ろうとしたが、時すでに遅し…

後ろ手に拘束されたスズは、鐙に腕を掴まれたまま公園の中へと連れて行かれた。





第93話 再会 〜 強さとは





何の躊躇いもなく親子の方へ近づきながら、鐙は自身の細菌・悪食顎を呼び出す。

オタマジャクシに似たそれは、ひょうきんな顔に似合わずグロテスクな口を持っており、皇后崎が出した回転刃を丸呑みした。

そして咀嚼したかと思えば、威力が倍増した弾丸を吐き出すのだった。


「横入わりぃな。デリカシーは子宮に置いて来たもんで」

「鐙ぃ…」

「デカくなったな迅坊ちゃん〜昔はこんな小さかったのに」

「(2人は知り合いなんだ…!)」

「邪魔するな」

「え〜俺も入れてくださいよ〜親子の殺し合いとか笑えるじゃないっすか〜それにほら、面白いもん捕まえたんすよ。隊長が欲しがってた奴」

「いった…」

「…治癒の鬼か」

「スズ!」


鐙に引っ張られ地面に転がったスズに目線を合わせるように、皇后崎の父・桃井戸颯は膝をつく。

彼女の顎に手を添えて持ち上げると、満足そうに小さく頷いた。


「本物のようだな」

「きたねぇ手でそいつに触んな!」

「おっ。なんだ迅坊ちゃん、随分必死じゃないの。初恋か?」

「迅……私は大丈夫!きっとこの場で殺されたりはしない。だから私のことは気にしなくていい!」

「スズ…」

「ひゅ〜男前だね〜」

「いい材料も手に入ったし、用件を済ませて早急に戻る。こんなことに時間を消費する意味はない」

「そんな言い方…!」


スズですら反射的に言葉が出てしまった颯の物言いに、息子が反応しないわけはない。

大切な母と姉を殺した意味、2人を殺す時の気持ち…

それを必死の思いで問い質す皇后崎に、父は無感情のまま答えを返す。


「…不思議なことを聞くんだな。何も思わないさ。鬼だから殺した。他の鬼を処分するのと何も違いはない」

「嘘…でしょ…」

「……そうかよ…やっぱ…テメェは絶対ブチ殺す!!」


スズが絶句する一方で、皇后崎は腹の底から溢れ出る怒りに任せ父親へ向かって行く。

鬼だというだけで、彼に奪われた母と姉。

その最愛の人たちのすべてが時間とともに自分の中から失われていくことに、皇后崎は大粒の涙を流した。

どれだけ願っても想っても、もう決して会うことは叶わない。

"返せ"と涙ながらに訴える皇后崎の姿に、スズもまた引き裂かれんばかりに胸が痛んだ。

しかし彼の想いが、父親に届くことはなかった。

先程までとなんら変わらない態度で自身の力を発動すると、あの日と同じように息子を一刀両断した。

酸素すら断ち切る颯の力により、皇后崎は苦しそうに膝をつく。


「迅!!」


鐙に押さえつけられていたスズは、身をよじりながら大切な友人の名を叫ぶ。

いつもなら、名前を呼ばれれば"ん?"と優しく返事をしてくれる皇后崎。

そんな彼の意識は今、完全に失われていた。

倒れ込む皇后崎を支えることもできないと、スズが手を強く握り締めた時だった。

視界の端に、紅蓮の炎が見えたのは…



- 214 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ

第2章 目次へ

第3章 目次へ

第4章 目次へ

第5章 目次へ

第6章 目次へ

短編 目次へ

章選択画面へ

home