炎と共に現れたその人物は、倒れ込みそうになっていた皇后崎をギリギリのところで受け止める。

そして珍しく涙を流している同期を優しく寝かせると、一ノ瀬は怒りの形相で振り返った。


「お前が泣くなんてな。お前に涙は似合わねぇんだよ。起きたら泣き顔おちょくってやろーっと。

 …で?こいつの泣かせたの誰…?」

「(四季があんなに怒ってるの初めて見た…)」

「つーか…テメェらに決まってるよなぁ!」


言いながら血を解放した一ノ瀬だったが、彼の攻撃は悪食顎によっていとも簡単に防がれた。

そうして吐き出された手錠で、捕まえていた松本の桃を拘束する鐙。

流れでそちらに目をやった一ノ瀬は、そこで初めてスズの存在を認識した。


「えっ、スズ…?」

「ごめん、四季…ちょっと気抜いてたら捕まっちゃって…」

「テメェら…皇后崎だけじゃなくて、スズにまで手出しやがったのか!」

「手は出してねぇよ。無傷で持ち帰らねぇと隊長に怒られちゃうからな」

「んなことさせるかよ…!スズ、待ってろ!すぐ助けて…ん?お前…どっかで会ったことあるか…?」


スズを気にかけながらも、傍にいた1人の桃太郎に一ノ瀬は目を奪われる。

既視感を覚えたのは、いつも一緒にいる彼とよく似ていたからだ。


「親子喧嘩の邪魔すんなよ。いい所だったのによぉ」

「親子喧嘩…?お前…皇后崎の親父…?

 ……どこまで糞野郎なんだテメェ…どこまで皇后崎を苦しめんだ…!テメェの子供傷つけるバカがいるかよ!」

「ガキ傷つける親なんざ沢山いるだろぉ。颯総士隊長が迅坊ちゃん切り刻んだ瞬間はゾクゾクしたぞ」

「あ…?」「えっ…」

「俺もあの現場にいたからなぁ」

「何がおもしれぇんだよ…?親として、皇后崎の傷跡見て何も思わねぇのかよ…?」

「何も」

「…っ、テメェ…!」

「にしても迅坊ちゃん全く成長してねぇな。弱すぎて笑っちゃうレベルだな」

「黙れクソが…!こいつを馬鹿にすんじゃねぇ…こいつ馬鹿にしていいのは俺だけだ!

 こいつは弱くねぇ!すげぇ強いんだよ!強いから生きてんだよ!

 弱かったらとっくに人生諦めて死んでんだよ!こいつが今生きてることが強さの証明だろ!

 俺のダチを舐めんじゃねぇよ!」

「四季…」


一ノ瀬の真っ直ぐな言葉に、スズの頬はまた涙で濡れる。

しかしそんな空気をぶち壊すように、悪食顎が彼の背後に迫っていた。

気づくのが遅れ万事休すかと思われたその時…見慣れた回転刃がそれを切り裂いた。

そして皆の注意が逸れたこのタイミングで、スズもまた動きを見せる。

足にグッと力を入れ、2人の方へと走ったのだ。


「! スズ…!」

「迅!」


いち早くその動きに気づいた皇后崎は、手の拘束のせいで危なっかしい走りをする彼女を受け止めるべく駆け寄った。

自分の胸に飛び込んで来たスズを抱き締め、彼は"良かった…"と小さく呟く。

すぐに手錠を破壊してやれば、自由になった手が自分の背中に回って来るのを感じ、皇后崎は改めて抱き締める力を強くした。


「怖い思いさせて悪かった」

「そんな…!迅のせいじゃない!」

「だとしても、俺の知ってる奴がスズに手出したのは事実だ。ごめんな…」

「…今、こうやって迅がギュってしてくれてるからもう平気だよ。ありがとう」

「(あー…好き過ぎて頭おかしくなる…)」

「スズ、平気か!?」


皇后崎の思考を断ち切るような大声で駆け寄ってくる一ノ瀬。

想い人のいつも通りの笑顔を確認すると、パッと穏やかな表情になった。

が、その顔がすぐに曇っていく。


「…一万歩譲って、スズを抱き締めてんのには目つぶる。だから1つ聞かせろ。お前いつ起きた…?今だよな?」

「あ?どーでもいいだろ。…てか、お前とダチになったつもりねぇよ」

「にょおぉぉ!嘘だバーカ、ばーか!グズってたくせによぉ!」

「あぁ!?」

「(ふふっ。本当いいコンビになったな〜)」

「何、キャッキャしてんだ?俺はなぁ、俺以外のデリカシーねぇ奴は嫌いなんだ」

「ビルも喰うのかよ!」

「あんなに食べたら、相当ヤバイものが出るんじゃ…」


スズの予想通り、悪食顎からは無数の槍が吐き出された。

それがすべて3人の方へ向いており、鐙の合図一つでいつでも攻撃可能な状態だった。

一ノ瀬と皇后崎はすぐに察した…この数は防ぎきれないと。

しかし自分たちにできることが1つだけある。


「皇后崎」

「あぁ、わかってる」

「四季?迅?」


目を合わせた2人は阿吽の呼吸でスズの前に立つ。

自分たちがどうなっても、大切な彼女だけは絶対に護ってみせる。

一ノ瀬と皇后崎の想いは、ただそれだけであった。

次の瞬間、鐙がパチッと指を鳴らした。



to be continued...



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