鐙の合図を聞いた瞬間、咄嗟にスズを抱き寄せる皇后崎。
そしてそんな2人を庇うように、一ノ瀬は最前線に立つ。
と、降りかかるであろう攻撃に目を瞑った3人の前に頼れる人物が姿を見せた。
「え!?」
「やっぱいるよなぁ」
「…」
「無陀野無人!」
「俺の生徒たちに何の用だ?」
第94話 また松本に ー前ー
鐙の攻撃を事もなげに受け流した無陀野は、3人を護るように立ち相手を見据える。
最強と謳われる鬼の登場に、桃側の表情がキュッと引き締まった。
「ムダ先…」「無人先生…!」
「…鐙、引くぞ。目的は果たした」
「ちょ!?」
「…まぁ無陀野とやるのは骨が折れるしなぁ。治癒の鬼はまた今度って感じでいいっすか?」
「あぁ、元々の目的ではないからな。だがいずれ必ず捕獲する」
突然自分に向けられた視線に、本能的に体が反応するスズ。
"こいつまで奪わせるものか"と言わんばかりに、皇后崎は彼女に回していた腕に力を込めた。
「まてよ…必ず俺がお前を殺してやる…!」
「そういう台詞はもっと強くなってから言うんだな。実力の伴わない発言は信用をなくすぞ、迅。
それと無陀野…これから世界は荒れるぞ」
「…あぁ」
「じゃあな」
鐙の言葉を最後に、2人は松本の桃を連れて一瞬で姿を消した。
時間にすればごく短いものだったにも関わらず、内容の濃さのせいでスズはかなりの疲労を感じていた。
大きく息を吐く彼女を労わるように背中を優しく撫でていた皇后崎のもとに、様子のおかしい同期が近づいてくる。
憎き父親との再会、からの敗北という決して軽くない出来事の後で、なんて声をかけたら良いのかと一ノ瀬はすっかり挙動不審だ。
皇后崎も皇后崎でそんな空気を察し、どこかぎこちない雰囲気である。
不器用な2人の様子を微笑ましく思いながら、スズは静かに無陀野の横へ移動する。
すぐに気配を察知する彼と目が合うと、同期たちの可愛い会話を邪魔しないような小さな声で話しかけた。
「無人先生、ありがとうございました…!先生のお陰で大きなケガなく終えられました」
「四季と皇后崎はな」
「へ?私もしてないですよ?」
何故自分だけ除外されたのか疑問に思いながら問いかければ、無陀野はそっとスズの右手を取る。
手錠がかけられていた手首の辺りは血こそ出ていないが、赤くなり少しの傷ができていた。
その部分を優しく撫でる無陀野に、スズはドキドキしながら言葉を探す。
「あ、こ、これは、私が油断してたからで…!痛みもないし、全然平気です!」
「スズにとってはそうでも、俺にとってこれは大きなケガだ。
あの口ぶりだと、あいつらはまたお前を狙ってくるだろう。引き続き警戒を怠るなよ」
「はい…!」
「ふっ、いい子だ」
落ち着いた声でそう言うと、無陀野は少女の頭に唇を寄せる。
初めての行動に驚き、スズが真っ赤な顔で見上げれば、雄の顔をした彼がいた。
今までも時折向けられていた熱っぽい視線も相まって、今の無陀野はとんでもない色気を放っていた。
直視できず、下を向きながらソワソワしているスズとは対象的に、当の彼はポンと頭を撫でてから視線を別の場所へ移す。
そちらでは不器用コンビがまだ微笑ましいやり取りを続けていた。
「皇后崎、何つーか…」
「何だモジモジと、キメェな小便か?」
「キメェ!?バーカ!お前なんか漏らしちまえ!俺は小便してくる!」
「皇后崎」
捨て台詞を残してトイレへ向かった一ノ瀬を見送りながら、無陀野は残った人物へ呼びかけた。
察しがいい彼は、担任の言いたいことが分かっているようで…
スズも気持ちを落ち着かせてから、2人の方へ意識を向けた。
「何も言うな…全部わかってる…俺はまだまだ…弱すぎる…」
「また1人で抱えるのか?」
「…1人で抱えて強くなれんならな…けど…そんなんで強くはなれねぇ…
結局、誰かがいた方が強くなれる。それにうるせぇ奴らがいるせいで、1人にだってなれやしねぇ。
人の抱えてる荷物勝手に持つ、鬱陶しい奴らのせいでな…」
「(優しい顔。きっと四季の言葉嬉しかったんだろうな…!)」
「おーい!皇后崎!めっちゃ透明で綺麗なオシッコ出たぞー!お前の涙より綺麗だった!ぷぷー!」
「あ!?泣いてねぇよ!殺すぞ!」
「他のメンバーと合流するぞ。四季、雷殿と昴どっちでもいいから連絡取れ」
「了解〜」
「大丈夫だとは思うが、スズは念のため皇后崎を診てやってくれ」
「わかりました!」
生徒たちに指示を出すと、所用で少し席を外す無陀野。
一ノ瀬もまた電話中のため、公園にはスズと皇后崎の2人だけが残った。
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