公園を出た4人は、緑屋の前で雷殿や万と合流した。

全員大きなケガもなく、再び笑顔で集まれたのは実に素晴らしいことである。

これにて松本での一連の出来事は一件落着となった。





第95話 また松本に ー後ー





と、集まった面々の中に見知らぬ人物を発見した一ノ瀬。

万が"健八さん"と紹介した彼は、かつて松本の鬼機関に所属していた人物とのこと。

今回の件、無陀野たちがいなければもっと被害が出ていたと、深く頭を下げながらお礼を伝えた。

そのやり取りが終わるのを待ち、万が現状の報告に入る。


「今回の一件、桃太郎機関が隠蔽するかと。すでに情報遮断のため、松本市全域でネット等が使えなくなってます。

 それに隣の県の桃太郎たちが、アグリの死体の後始末ですでに松本に来てるそうです」

「一般の人たちも混乱するでしょうなぁ」

「鬼の住民は警戒を強めて様子を見るそうです。不穏な動きがあった時、逃げられる準備をしながら」

「今回の件で警戒を強めるきっかけになりましたね。雷と昴に頼りきりでしたが、私含めまだ動ける元隊員は復帰した方がいいかもですね」

「…松本へ移住可能な隊員がいないか探しておきます。何か困り事があれば、こちらに連絡をどうぞ。

 スズ、京夜の名刺かなんか持ってるか?」

「あ、はい!あります!」

「ありがとう。彼女は援護部隊の人間です。もし救護の方で人手が足りない時は、この花魁坂を窓口に連絡をください」

「あと周辺の地下通路とか隠れ家の情報を練馬の偵察部隊の方がまとめてくださったので、このデータもお渡ししますね!」

「いいんですか?何から何まですみません。ありがとう」


スズと無陀野からの温かい心配りに、健八は安心したような笑顔で頭を下げるのだった。

こうしてフォローアップ態勢が整い、あとはいよいよ羅刹への帰還を残すのみ。

雷殿も一緒に行くことになり、深夜にも関わらず彼は元気いっぱいだ。


「いやー色々あったけど、松本いい所だったなぁ」

「他にも色々楽しい所や美味しい物ありますよ」

「まだ全然回り切れてないんだね〜」

「お蕎麦も山賊焼きも美味しいよ!」

「マジかよ、食いてー」

「あとスズが好きそうな甘いものもたくさんある!」

「うわ〜最高!全部食べたい!」

「今度は普通に遊びに来てぇな。また来ようぜ!松本に!」


三日月を背にした松本城は、それはそれは見事に輝いていた。


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-side 無陀野-

船に乗り込むと、四季たちは早々に部屋へ入っていった。

いろいろあって疲れが出たんだろう。耳を澄ませば、すぐに寝息らしきものが聞こえてきた。

寝る前に夜風にでもあたろうかと思い甲板へ出ると、そこには先客がいた。


「スズ」

「! あ、無人先生!」


笑顔でこちらを振り返ったのは、真澄との電話以来会いたくて触れたくて仕方なかった人物。

その想いが強すぎて、公園で合流した時は四季たちがいるにも関わらず思わず手が出てしまった。

自分でも驚くぐらいだったから、スズもきっと驚いただろう。

けど、赤くなって下を向くその姿がどうしようもなく愛おしかった。


「眠れないのか?」

「いえ、寝る前にもう一回松本の景色を見ておきたいなと思って!月もキレイですし」

「そうだな」

「先生は眠れないんですか?」

「いや、俺もスズと同じようなものだ。夜風にあたろうと思ってな。でも…」

「ん?」

「もし眠れないと言ったら、また一緒に寝てくれるか?…あの日みたいに」

「えっ!?あ、それは、あの、ちょ、ちょっと心の準備をしないと…!」

「冗談だ」

「(冗談言ってる顔じゃなかったよ…!)」

「むしろ…俺の理性の方が準備が必要かもしれない」

「へ?」

「最近、スズを見てると理性が飛びそうになる時がある」


言いながら頬に触れれば、また俺の好きな表情を見せるスズ。

このまま抱き寄せて、部屋へ連れて帰ったら…こいつはどんな顔をするんだろう。

……見てみたい。


「(まぁ…今はしないけどな)」

「せ、先生…?」

「あまり遅くなるなよ」

「あ、はい!」

「ん、おやすみ」

「おやすみなさい!」


スズの頭にポンと手を置いてから、俺は甲板を後にしようとした。

だが直後に服の裾を引っぱられて足を止める。

振り返れば、真剣な目をしたスズがいた。


「どうした?」

「あの、もし本当に眠れなかったら呼んでくださいね…!心の準備しておくので」

「ふっ。あぁ、ありがとう」


こうやって、スズはいつも俺の理性を脅かす。

真澄の言う通りだ。

俺は間違いなく…スズに惚れてる。



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