朝方、船は無事羅刹学園へと到着した。

なんだかんだあって忙しかったため、全員夕方まではフリーということに。

各自自由に時間を使いながら過ごしていると、あっという間に陽は高くなる。

スズは仮眠やお風呂を澄ませ支度を整えると、軽食を買ってから保健室へと向かった。

お昼を食べながら、師匠に松本での出来事を報告するためだ。


「京夜先生〜いますか〜?」

「いますよ〜ふふっ」

「ここでお昼食べてもいいですか?」

「もちろん!」


少し扉を開け覗き込めば、イスに座ったまま笑顔を向ける花魁坂がいた。

スズが買ってきたお菓子をつまみながら話を聞く彼は、想い人の来訪に表情が緩みっぱなし。

一生懸命話しているせいで昼食が全然進まない状態ですら、彼にとっては可愛く映るのだった。


「そっか〜今回もまた忙しかったね。本当お疲れ様。いつも頑張ってて偉いね、スズは」

「へへっ。ありがとうございます!…でもすみません」

「え?」

「報告のつもりだったんですけど、なんか褒めてもらいたくて話した感じになっちゃいました…!」

「! あははっ!いいんだよ、それで。実際に褒められることしてるし、俺も褒めてあげたいもん。

 こんなんじゃ全然足りないよ。もっともっと…スズのこと甘やかしたい」

「!」

「無事に帰ってきてくれてありがとう。良かった…また笑顔のスズに会えて」


そう言って優しく微笑みかけながら、花魁坂は机に乗っていたスズの手に自分のを重ねた。

母を思わせるような無償の愛と共に、彼が持つ天性の色気を感じ、スズは途端にアタフタする。

と、不意にノックされる保健室の扉。

花魁坂が返事をすれば、入ってきたのは見慣れた顔であった。


「あれ、ダノッチ。どしたの?」

「タトゥーをと思ったんだが、取込中ならまたにする」

「あ、お話してただけなので平気です!私が席を外します!」

「え、なんで?」「なんでだ?」

「いや、だって、見世物じゃないですし…!」

「ん〜ダノッチどうする?」

「俺は別に構わない。ただ無理に見せるものでもないから、スズが決めていい」

「それなら…傍で見守っててもいいですか?」

「あぁ」


少し口角を上げてそう答えると、手早くワイシャツを脱いでから近くに置いてあった丸椅子に腰かける無陀野。

その間に準備を整えた花魁坂は彼の背後に回り、慣れた手つきで刺青を入れ始めるのだった。

ジジジ…という音だけが聞こえる静かな空間で、スズはしばし2人の姿に見入っていた。

あっという間に1時間程が過ぎ、気づけば窓の外は茜色に染まりつつある。

終わり際になってようやく花魁坂が言葉を発した。


「高円寺に続いて松本もお疲れさん。さっきスズに聞いたけど、大変だったみたいね〜。

 よし…っと。はい、高円寺戦死隊員18名分入れ終わったよ」

「悪いな」

「タトゥーも増えたね。一体どこまで増えるのかな」

「松本の一件で桃との戦いも変わってくる。話し合いになるか…激化するか」

「穏便に着地したいね」

「はい、本当に…」

「もし争いが激化したらどうする?」

「戦うさ…この命が尽きるまで」


シャツを羽織り、ポケットに手を入れたまま、無陀野は茜色の空をバックにそう告げた。

以前も感じた胸がキュッとなる感覚に襲われ、スズは彼の前へ1歩足を進める。

そして左腕にそっと手を添えて言葉を紡いだ。


「…無人先生の命が尽きるかどうかは…私と京夜先生が決めます」

「「!」」

「簡単に先生の命を終わらせたりしません…!」


昨夜と同じ真剣な眼差しで贈られた言葉を受け止め、無陀野は少し顔を同期の方へ向けた。

視線の先には微笑みながら頷く花魁坂の姿があり、頼もしい援護部隊コンビの存在に心がじんわり温かくなる。

再び視線を教え子の方へ戻した無陀野は、"ありがとう"と彼女の頭を優しく撫でるのだった。


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"ちょっと1本電話かけてくる"

そう言って花魁坂が出て行くと、保健室は2人だけの空間になる。

自分の発言を振り返り照れ臭そうにしているスズを、無陀野は優しく抱き寄せた。

シャツのボタンを留めていないため相手の肌が直接顔にあたり、スズはいつも以上に自分の心臓が騒がしいのを自覚する。

気を紛らわすためにも何か声を発さないと…と思っていた矢先、彼女の耳に3文字の言葉がスッと入ってきた。


「…好きだ」

「えっ」

「前に、俺がスズに特別な感情を持ってると言ったのを覚えてるか?」

「は、はい」

「それが何かわかったら伝えたいと思っていたのに…俺はどうもそっち方面が疎いようで、なかなかハッキリしなかったんだ」

「はい…」

「でも昨日少し真澄と話した時に言われた。俺は…スズに惚れてるんだと」

「!」

「傍にいて安心するのも、触れたいと強く思うのも…全部、お前を1人の女として大事に想ってるからだ。

 スズがくれる言葉はいつも俺を支えてくれた。その真っ直ぐで芯のある行動に、何度救われたかわからない。

 今だってそうだ。お前が後ろにいてくれると思うだけで、俺は誰よりも強くなれる。

 きっともう随分前から、俺はお前に心を奪われてた。…好きだ、スズ。もうこの想いが変わることはない」


改めての告白は、しっかりと目を合わせて伝えた無陀野。

普段の冷静沈着な彼からは想像もできないほど、その目は熱を帯びていた。

あまりに突然で予想外の展開に、スズの脳内はパニックを起こし言葉が出てこない。


「あ、あの、私、えっと…」

「無理に喋らなくていい。驚かせて悪かった」

「そんな…!」

「スズの頭と心が落ち着いたら、返事を聞かせてくれるか?」

「も、もちろんです!あの、ありがとうございました…!」


赤すぎるぐらい赤い顔で言われたお礼の言葉に、無陀野は目元を和らげる。

もう一度抱き寄せれば、先程よりも体温の上がった想い人をより一層愛おしく感じるのだった。


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「ダノッチのあんな姿、初めて見たかも…」


電話から戻ってきた花魁坂は、扉に背を預けて座り込みながらそう呟く。

過去を思い返すようなその表情は、いつもの彼らしい落ち着いたものだったのだが…


「(それにしたってタイミング悪過ぎでしょ、俺……あー聞きたくなかったな…)」


次に見せた顔は、打って変わってツラく悲しげなものであった。

淀川のスズに対する言動も知っている彼としては、自分が抱え込んでいる想いを同期2人が普通に伝えているという事実が苦しかった。

花魁坂が保健室の扉を開けるには、まだもう少し時間が必要だ。



to be continued...



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