-side 花魁坂-
お風呂から上がって、ダノッチと別れたのが1時間ぐらい前のこと。
今俺は、休憩スペースに設置されてるお気に入りのイスに座ってる。
一旦部屋に戻ったけど、とても眠れそうになかったから。
背もたれに体重を預けて目を閉じれば、さっき聞いた同期の言葉が浮かんでくる。
"俺が命を懸けて守ります"
"…そうですね。好きですよ"
すべてが羨ましかった。
スズを守れる力があることも、素直に自分の気持ちを吐き出せる強さも…
俺はどっちもない。だからこんなとこで1人くすぶってる。
「(情けないなぁ〜本当……嫌になるよ…)」
そんなことを思いながら大きく息を吐いたタイミングだった。
大好きな声で自分の名前が呼ばれたのは…
「京夜先生!」
「! スズ…」
ニコニコしながらこちらへ歩いてくるジャージ姿のスズは完全なオフモードで、愛らしさが増していた。
いつだって一番会いたい子なのに、今は一番会うのに勇気が必要な子。
そんな子が、突然目の前に現れてしまった。
「休憩してたんですか?」
「うん。ちょっと眠れなくてさ」
「体調悪いとか…?」
「違う違う!少し考え事してただけ。スズは?」
「飲み物を買いに!なんか喉渇いちゃって」
「そっか。明日も朝から訓練だろうから、早めに寝なよ?」
「はい!…京夜先生も、あまり遅くならないようにしてくださいね?」
「ありがとう。スズの顔見たら眠くなってきたから、そろそろ部屋戻るよ」
「ふふっ。お役に立てて良かったです!」
そう言って優しい笑顔を向けてくれるスズ。
その瞬間、自分の中でスイッチが入るのがハッキリわかった。
気づいたら、"おやすみなさい"って頭を下げてから背中を向けたスズの腕を掴んでた。
そして驚いて振り返った彼女を、強く抱き締めてたんだ。
「…本当はね、墓場まで持っていくつもりだったんだ」
「え?」
「俺の気持ちを伝えても、スズを困らせるだけってわかってたから…絶対に言わないって決めてた。
でも…スズが他の男と話してたり、何かいい雰囲気になってるのを見るのがツラくてさ。
その中の誰かと恋人同士になって、手繋いで、キスして、結婚して子供ができて…って想像すると、イライラして頭がおかしくなりそうだった」
「京夜先生…?」
「ごめん、スズ。困らせる前提で伝えるね。……俺、1人の女の子としてスズが好き」
「!」
「いつも一生懸命で、誰かのために全力で頑張ってるスズが大好きなんだ。
危ないことして怒られてシュンとしてるところも、褒められて照れ臭そうにしてるところも…全部可愛い。
全部…俺だけのものにしたいって思う。そういうこと考えるぐらいには、スズのこと重めに好き」
「先生、私…」
「あー大丈夫!返事はいらないから」
「へ?」
「俺のエゴで伝えちゃっただけでも迷惑かけてんのに、返事まで要求するわけないでしょ?」
「でも…!」
「だから忘れて大丈夫。すぐには無理だと思うけど、毎日いろんなことあるしさ!すぐ忘れられると「嫌です!」
「え、スズ…?」
「…京夜先生は優しすぎます。自分のことは後回しで、いつも皆のことばっかり考えてる。
それは先生のいいところで、私も見習おうと思って頑張ってます。でも…自分の気持ちは…大事に、して欲しいです」
「!」
「好きって言ってもらって、私すごく嬉しかったです。そんな風に想ってもらってたって、初めて知ったから。
だから、してもらった告白がなかったことになるの…嫌です」
「スズ…」
「先生のこと、今までそういう風に見てなかったから時間はかかると思うけど…ちゃんと考える時間が欲しいです!
…先生がくれた想いと、向き合う時間をもらえないですか?」
真剣な顔でそう言って、スズは俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
…そうだ。俺が好きになった女の子は、こういう子だった。
返事なんていらないって思ってた。想いを伝えられるだけで十分だって…
でもスズは、そんな後ろ向きな俺をまるごと受け止めてくれる子だった。
そう思った途端、俺は足の力が抜けてその場に座ってしまった。
「先生…!大丈夫ですか?」
「もう…そういうとこだよ」
「えっ」
「そんな風に言ってもらったら…ワガママ言いたくなっちゃうじゃん…」
「! 聞きたいです、京夜先生のワガママ」
「……いつまででも待ってるから…返事欲しい」
「はい!」
俺と目線を合わせるようにしゃがんでくれていたスズは、またとびきりの笑顔を見せてくれた。
見た目も性格も、なんて可愛い子なんだろう。
ダノッチとまっすーが夢中になるのは当然だ。
でもごめん。俺ももう…譲る気持ちは微塵もない。
出遅れた分、これからはもっと積極的にいかないとだからね。
「スズ」
「ん?」
「…好きだよ」
俺の言葉に顔を真っ赤にする彼女を、もう一度強く抱き締めた。
第6章 fin.
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