松本での一件が落ち着き、数日が経った頃…
とある居酒屋に見慣れた顔が3つ揃っていた。
オフが見事に重なった彼らは同期であり、このまたとないタイミングを楽しもうと以前より計画を立てていたのだ。
行きたい場所、食べたい物を遠慮なく言い合いながら過ごしていると、辺りはあっという間に薄暗くなってくる。
そしてパッと目に入った居酒屋に入ったのが5時間程前のこと。
全員がいい感じに酔っぱらっており、人数の割には賑やかな席であった。
と、その中の1人が持つスマホが突然騒がしくなる。
第98話 変化の予兆 〜 始まり
「おい、月詠〜こういう時ぐらいスマホ切っとけよ〜」
「ごめんごめん。自分の方はマナーモードにしてたんだけど、こっちのこと忘れてた」
「えっ、お前仕事用の方も持って来てんのかよ。偉すぎだろ」
「一応隊長だからね。あ〜総士隊長からだ。ちょっと確認だけさせて。すぐ終わるから」
「旋律、こいつに酒追加しろ!メール読めねぇぐらい酔わせてやろうぜ!」
「メール確認するだけならすぐ終わるだろ。桜介って意外と寂しがりだよな!」
「そんなんじゃねぇわ!」
タイプの違うイケメンが仲良く飲んでいると、店中の注目の的であった月詠・桜介・旋律の3人。
何人もの女性たちが声をかけようと近づくものの全く相手にされず、彼らはずっと男同士で盛り上がっていた。
相変わらずワイワイと話している2人を他所に、月詠はサッとメールに目を通す。
が、次の瞬間…
「えっ!?」
「んだよ、月詠。どうかしたか?」
「"今すぐ来い"とか?」
「…これ見て」
真剣な顔でスマホをテーブルに置く月詠。
そこに表示されているメールの文面を見るなり、桜介と旋律も同じように声を上げた。
桃井戸颯総士隊長から各隊の隊長宛に届いた連絡は、3人にとって特別な存在…木下スズについてだったのだ。
「"木下スズを生きたまま捕獲"って、どういうことだよ!」
「また狙われるようになったってことか?せっかく生け捕り命令取り下げられてたのに」
「そうなるね。スズの治癒能力はすごい。研究してモノにできれば、間違いなく桃太郎にとってプラスになる」
「捕まえて研究材料にするってことかよ…」
「ふざけんな!あいつは物じゃねぇって何回言えば…!」
「何とか守ってやんねぇとな」
「うん、僕たちで出来る限りのことはしよう」
「…俺、スズのとこ行ってくる」
「行くって…どこにいるか知らないだろ?」
「捜せばいいだろ!あいつにこのこと教えてやんねぇと…!」
「それなら俺L●NE知ってる」
「はっ!?」
「旋律ナイス!この前会ったって言ってた時に交換したの?」
「そっ。桜介〜先越して悪ぃな」
ギャーギャーと騒ぐ桜介を月詠が宥めている間に、旋律はスズとのトーク画面を呼び出す。
文章を打つよりも話した方が早いと思い、彼は"ビデオ通話"をタップした。
音声通話にしなかったのは、旋律自身がスズの顔を見たかったからだ。
数回のコール後、画面にパッと明るい顔が現れる。
『旋律さん、お久しぶりです!』
「久しぶりだな。元気してたか?」
『はい!旋律さんも、ケガしたりしてないですか?』
「大丈夫だ、ありがとな!…ってか急に電話して悪い。今少し時間いいか?」
『もちろんです!』
事情を説明し、今度は月詠が画面に姿を見せる。
軽く挨拶をしてから本題へと入れば、スズの表情が瞬間的に引き締まった。
「…ってわけなんだ。まだ具体的なことが伝えられなくて申し訳ないんだけどね」
『そんな!こうして今連絡くださっただけで十分ですから。でも…"やっぱり"って感じです』
「もしかしてもう何かされたのか!?」
『この前出先で偶然鉢合わせてしまって。その時に少し…』
「ケガは!?」
『それは全然!けど…"必ず捕獲する"っていう言葉は聞こえました』
「そん時からいろいろ考えてたかもな」
「そうだね。意外と動き出しは早いかもしれない。スズ、僕と桜介の連絡先もあとで送るから登録しておいて?」
『わかりました!』
「マジで何かあったらすぐ連絡しろよ?どこにいても絶対助けに行く!」
『桜介さん…ありがとうございます!でも無理はしないでくださいね』
「「「?」」」
『鬼を助けに行くって、立場上難しいことの方が多いと思うから。私を助けることで、皆さんの状況が悪くなるのは嫌です…!
桃か鬼か選択を迫られたら、迷わず桃を選んでください!』
「(あーくそっ。今すぐ抱き締めてぇ…)」
「(ここで俺らの心配とかカッコ良すぎねぇか?マジで惚れちまいそう…)」
「(スズは罪な女の子だなぁ。今日どの女性にもなびかなかった2人が一撃だ)」
画面の向こうで急に黙ってしまった男たちをキョトンと見つめるスズ。
何か失礼なことを言ったのかと目が泳ぎ始めた頃、ようやく声が聞こえてきた。
「ありがとう、スズ。だけどこればっかりは言うこと聞けなそう。ねっ、桜介。旋律」
「おぅ。もしもの時どっちを選ぶかは俺らが決める。つっても、俺の中に"スズを捨てる"って選択肢はねぇけどな」
「俺も。そうやって言ってくれるスズだから…絶対守りたいって思う」
『桜介さん、旋律さん…』
「もちろん僕にもないよ。大丈夫、その辺上手くやるのは僕ら得意だから。心配しないで?」
3人からの頼もしい言葉に、スズは頭を下げながらお礼を伝えた。
通話終了後、さらに場が盛り上がったのは言うまでもない。
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