「よしっ、じゃあ俺らも頑張りますか!」
「押忍!」
「一般人への治療は松本でもやったと思うけど、鬼殺優先法のせいでその時とは状況が全く違うから十分気をつけること」
「はい」
「それと鬼が経営してる病院に協力を依頼して、スズをそこの医師ってことにしてもらってるんだ。
だから身分を聞かれたら、その病院名を出していいからね」
「わかりました」
「…ダノッチから聞いたけど、迅々のパパに狙われてるんだって?」
「あ、はい…この前信頼できる桃の人からも連絡があって、各隊の隊長宛にそういう内容のメールが送られたそうです」
「そっか。じゃあ上の奴らにはスズの顔と名前がバレてる可能性が高いね」
「そうですね…でもハッキリ名指しされるまでは、知らぬ存ぜぬで通します!」
「うん、それがいい。末端まで情報が行き渡ってるとは思えないし、しばらくは大丈夫だと思うから」
「はい!」
「あと最後に…」
「ん?」
「…少しだけ、抱きしめてもいい?」
突然の甘いお誘いに心拍数が上がるスズに微笑みかけながら、花魁坂は彼女を優しく抱き寄せる。
包み込むようなハグは、スズにあの日の告白を思い起こさせるのに十分であった。
唯一違うのは、鼻に届く香りが石鹸ではなく、いつも彼がつけている香水になったことだけだ。
「(あの時はお風呂上りだったから…って、そんなこと考えてる場合じゃない!)」
「…医者失格って言われちゃうかもしれないけど…本音を言うとね、スズには自分の命を優先して欲しい」
「えっ」
「治療中、もし桃に襲われたら…目の前の患者を置いて逃げて欲しいって…思ってる。
誰かの治療をしてたことでスズが命を落としたら…俺は…その人のことをちゃんと診れる自信がない」
「…」
「でもね…こういう時、俺や周りがいくら言っても、スズが首を縦に振らないことは知ってる。
"誰かが助かるなら、自分のことは後回しでいい"って、そう思いながらスズが治療してることも…ちゃんとわかってる。
そういうスズだから…俺は好きになった」
「京夜先生…」
「だから1つだけ約束して?自分と相手の命を天秤にかけないって」
「!」
「スズの命が、相手の命より軽いなんてことは絶対にない。どっちも同じだけ大切で、失ったら二度と戻らない。
傷だらけでも、骨が折れてても、それは俺が必ず治す。だからどんな時でも、命を最優先にして」
「はい!相手と…自分の命を守る行動をします!」
そう言って、真剣な目と明るい笑顔を向けるスズ。
"この子を失いたくない"
自分の中にある、以前よりさらに強くなった想いを自覚しながら、花魁坂は彼女の頬を両手で包み込む。
そしてその可愛らしいおでこに、触れるだけのキスを落とすのだった。
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花魁坂に見送られビルを出発したスズは、彼からのスキンシップをまだ消化できずにいた。
今まで自分の気持ちを押し殺していた分、告白によりリミッターが外れた花魁坂は色気マシマシ状態。
無陀野とは違うタイプの整った顔で迫られれば、恋愛初心者のスズはひとたまりもない。
おでこに残る熱や感触に意識が向くのを堪えながら、街へ出たスズだったが…
目の前に広がる光景に頭が瞬時に切り替わった。
「(酷い…本当にやりたい放題だ…)」
建物や道路は破壊され、あちこちから煙が上がっていた。
耳を澄ませば、怒号や逃げ惑う人の声も聞こえてくる。
そして当然のことだが、道のそこかしこに血を流して倒れている人たちがいた。
当初の予定では遊摺部からケガ人の情報を聞き、そこへ向かう流れだったのだが…その必要はなさそうだ。
「遊摺部君、聞こえる?」
『うん、聞こえてるよ!』
「目に見える範囲にケガ人が10人以上いて、しばらくここを離れられなそう」
『分かった!じゃあそこでの治療が落ち着いたら声かけて?それまでに負傷者がいる場所をまとめとく』
「了解!皆も気をつけてね…!」
天使からの言葉に、明るく返事をする同期たち。
彼らの笑顔を思い浮かべながら、スズもまた力強く一歩を踏み出した。
to be continued...
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