スズが彼と出会ったのは偶然だった。

その時スズは、偶々歩道に倒れている一般人の治療をしていて…

その近くに、偶々鬼を追いかけている桃太郎がいて…

その桃太郎の放った攻撃が、偶々ビルの一部を破壊して…

その一部が大きな塊となって、偶々スズの方へと飛んできた。

治療に集中していた彼女がバッと見上げた時には、既に逃げられない距離になっていた。





第100話 鬼救出作戦�A





花魁坂の言葉が頭を過(よぎ)ったが、それでもやはりスズは目の前の人物を守ろうと覆いかぶさる。

"打撲で済めばいいな…"などと考えていたスズだったが、不思議と痛みも衝撃も一向に襲ってこなかった。

自分の周りに広がる粉々になった欠片は、さっきまでこちらへ飛んできていた塊だろう。

そうして顔を上げた彼女の視界には、1人の桃太郎が立っていた。

両耳で揺れるフリンジ型のピアスが特徴的な黒髪の彼は、無表情ながらとても整った顔をしていた。


「ケガは?」

「(スクラブ着てて良かった…!)だ、大丈夫です!ありがとうございます!助かりました…!」

「こちらこそ、人命救助に感謝する。治療はもう少しかかりそうか?」

「あ、はい。あと10分ほど…」

「わかった。じゃあ終わるまでここにいる。また同じことが起きたら危険だからな」

「いいんですか?」

「あぁ。だから治療に集中してくれ」


自分が鬼だとバレていないことに安堵し、桃からの厚意を有難く受け入れるスズ。

背後からじっと見られることに緊張しながらも、彼女はいつも通りテキパキと処置を進めていった。

そして10分後…

"終わりました!"と振り返れば、黒髪の桃太郎はスズの手際の良さに感心する。


「すごいな、きっかり10分だ。処置も的確で無駄がない」

「ふふっ、ありがとうございます。プロですから!」

「そうだな」

「(無人先生よりも表情変わらない人だな〜)」


その時、耳につけた通信機から声が聞こえてくる。

少し患者を見ててくれと桃太郎に頼んでから、スズは慌ててその場を離れた。

同期たちの会話を聞いていると、どうやら一ノ瀬との通信が途切れたということらしい。

遊摺部によると、途切れる直前の場所はわかるが、それ以降の足取りは不明とのことだった。

当然"誰かが捜しに行く"という選択肢があがる。

その"誰か"としてペアを組んでいた屏風ヶ浦が手を挙げたのだが、1つ問題が…


『けど、平気ですかね?僕らの任務は鬼の救助なのに、勝手に行動して…』

『(確かに馬鹿も抜けて、屏風ヶ浦も抜けるとなると人手不足だ…)聞こえるか?』

『聞こえている』

『鬼の捜索も人手が足りねぇのに、屏風ヶ浦を馬鹿の捜索に行かせるべきか?どっちを選ぶか…鬼の救助か、馬鹿の捜索』

『お前の中で答えがあるなら、この確認に意味はない』

『!?』

『すでに揺るがぬ答えがあるなら迷わず動け。背中を押してもらうのを待っている時間は無駄だ。

 お前が1人ならやれることも限られるが、1人ではないだろ。それと1つ覚えておけ。

 選ぶということは、必ずしもどちらかを切り捨てるということじゃない。両方選ぶという選択肢を忘れるな』

『!』

『切り捨てる決断は、他に選択肢がない時にしろ。それでもいつかは合理的に何かを切り捨てないといけない日が来るはずだ。

 それまでに大事なのは切り捨てることに慣れるのではなく、やれることの選択肢を増やすことだ』

『皇后崎!手分けすりゃ2人の穴埋められんだろ!俺はまだまだ動けんぞ!』

「私も!治療に行く範囲広げて大丈夫だよ!」

『…わかった。遊摺部!屏風ヶ浦と馬鹿が捜索するはずだった範囲を共有しろ!各自2人の穴埋めるために捜索範囲広げるぞ!』

『あいよぉ!』『わかった!』

『スズ!そういうことだから、恐らくあちこちから救助要請が入る。キツイと思うが頼む!』

「了解!」

『屏風ヶ浦!』

『ひゃ…ひゃい!』

『馬鹿を任せたぞ!』

「帆稀、何かあったらすぐ連絡入れてね…!」

『…はい!』

『責任はとる。こっちの意志で動くぞ』


皇后崎のその言葉を最後に、羅刹組の会話は一旦終了した。

頼もしい仲間に勇気をもらい、スズもまた自分に与えられた役割を全うするため動き出すのだった。



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