他の看護師達と共に、スズは用意された大量の輸血パックを1つ1つ花魁坂の腕に取りつけていく。
そして最後のパックをつけ終わると、傍で一部始終を見ていた一ノ瀬の隣に立って花魁坂に視線を向けた。
「先生、準備できました!お願いします」
「うん、ありがと!」
「なぁ、スズ。なんであいつにつけてんの?患者につけるんじゃねーの?」
「ふふっ。まぁ見てて!京夜先生の力すごいから」
そう言って見守るスズの前で、いよいよ師匠である花魁坂が動き出す。
第13話 ここが俺の戦場 / 胸くそ悪いにも程がある
患者の頭側にスッと立った花魁坂は、いつもと変わらない調子で負傷した隊員へ話しかける。
時折見せる笑顔は、とてもこれから大掛かりな治療をするとは思えない程に穏やかだった。
「旦那、腕と脚どっちが欲しい?腕なら口を1回、脚なら2回閉じてよ」
「(パク…)」
「腕ね…了解っす」
「こ…子供…生…れ…抱き…め…たい…」
「しっかり抱かせてあげますよ。ただ俺の血を大量に"入れる"んで、マジ超痛いっす。我慢お願いしゃっす!」
「少し口開けられますか?」
「あ、あぁ…」
優しく話しかけたスズが枕元に膝をつき、患者の頭や顔が動かないように手を添えて押さえる。
チラッと師匠に目配せをすれば、花魁坂は小さく頷いてから自身の手首を切りつけて血を流し始めた。
「俺の血は戦闘向きじゃないけど便利なのよ。この血は鬼の回復力を何倍にもしてくれる」
「あんたたちも!押さえるの手伝って!」
「ううぅうぅうう!!」
「輸血ガンガン減ってるぞ!?」
「あんたたち突っ立ってないで、血ドンドン持ってきなさい!隣の部屋にあるから!持ってきたらスズちゃんにパスして!」
押さえる側に回らなかった遊摺部・手術岾・漣は言われるままに、隣の部屋から輸血パックを持ってくる。
そして彼らからパックを受け取ったスズは花魁坂の傍に立ち、輸血が途切れないように阿吽の呼吸でパックの付け替えを行っていた。
そうして花魁坂の血を入れ続けること数分、ついに患者の体に変化が現れる。
血の作用で細胞が活性化され、左手に始まり、次に右手、そして続けて肺が再生されていく。
苦しそうな声が止むと同時に、患者の両手と肺はすっかり元通りになっていた。
「手と肺が…治った…!」
「久しぶりに見ましたけど、やっぱりすごいですね…!」
「ありがと!スズのサポートのお陰だよ」
「なぁ、時間おいて脚も治せないのかよ?」
「少量なら何回でも治せるけど、俺やスズの血は一度に大量に摂取すると抗体ができちゃうんだ。
そーなるともう脚の再生までは出来ないんだ。これ以上摂取したら、体がもたないしね」
「じゃあスズの血でやればいいんじゃね?この人にはまだスズの血は入ってねぇだろ?」
「俺とスズの血は同じ治療系だからか相性が悪いんだ。だから1人の体に俺ら2人の血を入れるのは危険なんだよ」
「そうなのか…」
自分の案が上手くいかないことを知り、残念そうな表情を見せる一ノ瀬。
かつて自分も同じことを師匠に訴えたことを思い出し、スズは人知れず表情を曇らせた。
そんな彼女の頭を、花魁坂は優しく撫でる。
パっと自分の顔を見上げてくるスズに微笑みかけてから、彼は再び患者へと声をかけた。
「旦那方、貴方たちはもう戦闘部隊から外されると思うっす。でもこれからは援護部隊で一緒に戦いましょうよ。
バチバチにいい最新の義足と義手作らせまっせ。ねっ、スズ?」
「はい!今技術がすごく進歩してるんです。きっと使いやすいのが出来上がりますよ!」
「そういうことっす!ま!とりあえずリハビリ頑張りましょうね」
「気合い入れないとついてこれないですよ!」
「ありがとう…感謝しきれない…」
「君たちに治してもらえて良かったよ…」
優しく穏やかな笑顔で声をかけてくるスズと花魁坂に、隊員達はそう言って横たわったまま涙を流す。
その様子を見た2人も、顔を見合わせて笑顔を向け合った。
そうして治療を終えると、後の処置を看護師達に任せてスズと花魁坂は次なる患者の元へ…
歩きながら、花魁坂は終始静かに治療の様子を見つめていた一ノ瀬たちに話しかける。
"これが鬼と桃太郎の戦争だよ"…と。
「あの隊員たちが未来の君たちかもしれない。色んな理由で前線に行きたい気持ちもマジで分かる!けど!
前線だけが戦場じゃない。前線で前を向いて戦えるのは、その背中を守ってくれる人がいるからってことを覚えときな。
戦う人の後ろで、傷ついた鬼を全力で助けるのが俺やスズの…援護部隊の仕事だ…ここが俺らの戦場だよ。」
「あんたマジかっけぇ!チャラついてて嫌いだったけど漢だぜ!」
「分かる!チャラ男だけど痺れたな!」
「ふへー俺の株爆上がりじゃん」
「ふふっ。良かったですね、京夜先生!」
「つーかお前もだから!」
「へ?」
「血で戦えないとか言うからどんだけ情けねぇ奴かと思ってたら、めちゃくちゃすげぇじゃん!マジ頼りになる!」
「! ありがとう…!」
「バカ!スズは俺の天使なんだから当たり前だろ!?」
「ちょっと、四季…!」
「でも本当すげぇよ。鬼の国の天使は伊達じゃねぇな!」
「(また謎の単語出てきた…)あ、ありがと!」
「よっしゃあ!なんでもするぜ!ジャンジャン指示くれ!」
花魁坂の言葉に、テンションが上がる一ノ瀬と矢颪。
この一件で一ノ瀬はもちろんだが、矢颪もまたスズへ尊敬の眼差しを向けるようになるのだった。
照れ臭そうに同期たちと話すスズを、花魁坂は優しく見つめていた。
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