スズが次なる患者の元へ向かおうとしていた一方で、花魁坂は一ノ瀬にあるお願いをする。
それは昨日運ばれてきた幼き少女・芽衣のケアだった。
両親が見つかっておらず、すっかり塞ぎ込んでいる彼女のことは、スズも気になっていた。
だが次々に運ばれてくる患者の対応で、なかなか相手ができずにいたのだ。
一ノ瀬の真っ直ぐで相手を思いやれる性格は、この短期間でスズも十二分に分かっていたし、この役割は適任だと彼らがいる方に笑みを向けた。
と、そんな穏やかな空気を切り裂くように、突如無数の足音が聞こえてくる。
花魁坂を呼ぶ看護師の緊迫した声に反応して、和室の中にいたスズが廊下へ出れば、目の前を担架に遺体を乗せて運ぶ援護部隊の面々が足早に通り過ぎていった。
「先生!」
「あらま…たくさん来たね」
「京夜先生、これ…どういう…」
「俺も今状況聞くとこだから、スズもここにいて?」
「はい…!」
「見回りをしてた援護部隊が、大量の死体を回収したみたいです。ざっと30人ぐらいです」
「30!?」
「そんな量の死体が放置されてたの?」
一ヵ所に複数の遺体があること自体は、各部隊がチームで動いている以上有り得ない話ではない。
だがそれでも、30という人数は異常だった。
スズと花魁坂が顔を見合わせてそんな話をしていると、不意に幼い声が聞こえてくる。
「待って!パパ!ママ!」
「芽衣…」
「芽衣ちゃんのご両親だったのか…」
「うああぁぁぁ!!パパァ…!ママァ…!」
「慣れないね…本当に…」
「はい…」
運ばれてきた遺体の中に自分の両親を見つけ、その場で泣き崩れる芽衣。
まだまだ親の愛情が必要な年齢である。
だがこの瞬間から、彼女は天涯孤独の身になってしまったのだ。
その絶望や孤独、悲しさを含んだ泣き声はスズや花魁坂の心にも暗い影を落とす。
「…患者さんの治療に行ってきます」
「うん、お願いね。…大丈夫?」
「大丈夫です。芽衣ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「了解」
1つ大きく息を吐いて気持ちを切り替え、グッと顔を上げるスズ。
頭にポンと手を置いて自分のことを気にかけてくれる花魁坂に少し笑みを見せてから、スズは再び和室へと入って行った。
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治療を始めて少し経った頃、スズはふと隣の和室が騒がしいことに気がついた。
隣は今さっき運ばれてきた死体が安置されているだけ…騒がしくなる要素はない。
周りにいた看護師たちも自分の仕事をしつつ、不思議そうな表情で隣にチラチラと目を向けていた。
そしてついに無視できない程の騒々しさを感じた矢先、障子が外れる大きな音が聞こえてくる。
只事じゃないとスズが廊下に続く障子を開けると、さっき運ばれてきた死体が立ち上がり、看護師や援護部隊に襲いかかっていた。
とりあえず目の前にいるゾンビのような死体を、無陀野に鍛えられた体術で気絶させる。
「皆さん、大丈夫ですか…!」
「スズちゃん!きゅ、急に死体が動き出して…!」
「(! それって…もしかして…!)」
廊下に飛び出て辺りを見渡せば、一ノ瀬や花魁坂もまたゾンビ化した死体に襲われていた。
先程まで2人の傍にあった死体は芽衣の両親だ。まだ彼女自身もすぐ近くにいる…
どれだけ想像を膨らませても、最悪な過程と結末しか浮かんでこない。
血で倒せない代わりに急所をついて気絶させながら、スズは悪い想像を打ち消すように、現在進行形で襲われている師匠の元へ走った。
「京夜先生!!」
「スズ…!危ないから来ちゃダ…メ…って、すごい」
「ケガしてないですか!?」
花魁坂に襲いかかっていた死体を気絶させると、スズは彼の顔を覗き込む。
京都を出て行った頃とは比べ物にならないほど強くなった弟子の姿に、今の状況も忘れ、花魁坂の表情には笑みが浮かんだ。
だがそれも束の間、すぐに次の死体が襲って来る。
咄嗟にスズを守るように抱き寄せると、花魁坂は目を瞑り、降りかかるであろう痛みに備えた。
そんな2人を助けたのは、来る途中で無陀野から貰った特注のハンドガンを手にした一ノ瀬だった。
「スズ!チャラ先!」
「四季…!」
「ありがとう…援護部隊は戦闘はからっきしなんだ。患者を安全な部屋に避難させたいから、仲間の死体の対処お願いできるかな?」
「あぁ…芽衣を頼むよ」
「援護部隊!早急に患者の避難と二次被害の回避に努めろ!ケガした人はスズのところに!スズ、お願いね」
「了解です!」
ゾンビ化した隊員たちを相手にする同期を心配そうに見やりながら、スズもまた自分の仕事へと戻って行った。
to be continued...
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