「ん?」
「どうしたの、スズちゃん?」
「あ、いや…今何か名前呼ばれたような…」
「え?ん〜誰も呼んでなさそうだけど…」
「ですよね…気のせいかな」
京都支部でケガ人の治療にあたっていたスズは、傍にいた看護師と不意にそんな会話をする。
まさか無陀野が爆発に巻き込まれ気を失っているとは夢にも思わず、ただただ目の前の仲間のケガを治し続けていた。
そして彼女がいる部屋の隣では、一ノ瀬たちがようやくゾンビ化した仲間の対処を終えたところだった。
治療がひと段落したスズは一ノ瀬たちがいる部屋へ入ると、辺りに広がる惨状に沈痛な面持ちを見せながら次なる仕事に取り掛かった。
2度死んだ隊員たちの名前を確認・記録し、顔や服装を少しでもキレイな状態にして火葬場へ送る。
それが彼女に託された大切なミッションだった。
スズが動き出した一方で、一ノ瀬たちの方にも動きが…
惨劇が繰り広げられた広間へ、幼き少女・芽衣が入って来たのだ。
彼女の前には、再び死を迎えた両親の姿があった。
「芽衣ちゃん、まだ入っちゃ…」
「…」
「芽衣…ごめん。俺がお前の…」
「いいよ…ずっと学校も行かないで…隠れて生きてきたんだもん。隠れて逃げて、転々としながら生きてきたから…
なんとなく思ってた…いつかこーゆう日が来ると思ってた。だから…気にしなくていいよ」
「(それが…子供の口から出る言葉かよ…!これが…童話で英雄とされる奴のやり方かよ…だったら俺は悪でいい!)
大丈夫だ…!俺が!この先笑って暮らせる世界にしてやる!(悪として英雄をぶっ潰してやる)だから大丈夫だ…!」
とても子供とは思えないような、悟りの境地に立つ芽衣を、一ノ瀬は力強く抱きしめた。
それから彼女の体の向きをクルッと変えると、少し離れたところにいるスズの方へ目を向けさせる。
「…芽衣。ツラい時はさ、スズのこと見てな」
「スズ…?」
「ほら、あそこで死体の顔キレイにしてる、優しい顔した子」
「あのお姉ちゃんなら知ってる」
「なんだ、知ってたのか。…スズは俺にとって天使なんだ」
「?」
「スズってめちゃくちゃ優しいんだよ。傍にいるとすげー落ち着くの。だから芽衣も、何かあったらスズに甘えていいんだからな?」
一ノ瀬にそう言われた芽衣は、スズの方を見つめながら静かに頷いた。
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時を同じくして、食事処"水元"には2人の桃太郎の姿があった。
スズ達が出会ったあの老婆は無惨にも殺され、地下への入口はいとも容易く彼らを迎え入れる。
「さぁさぁ童話のラストを華やかに飾ろうじゃないか」
意気揚々と階段を降りる唾切と、それに従う副隊長の蓬。
2人とスズの接触までに残された時間は、あと僅かしかなかった…
to be continued...
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