花魁坂の貧血がだいぶ回復し、2人は次の行動について話し始める。

隠し通路を使って部屋へと戻る花魁坂に、最初はスズも同行する予定だった。

だがその折、今いる通路の奥の方から、何かがぶつかり合うような大きな音が聞こえてくる。

その中でよーく耳を澄ませば、かすかだが人の声も…

それはスズにとって聞き馴染みのある声だった。


「今の声…皇后崎君かも」

「…ここに戻って来ようとしてくれたのかもね」

「そうですね……私、ちょっと行ってきます!」

「え?何言ってるの!ダメに決まってるじゃん!」

「でも先生が無事なこと伝えないと…!もうここには来なくていいって分かれば、そのまま引き返して逃げることもできます!」

「だからって、スズが1人で行くなんて絶対ダメ」

「無茶なことはしません!少しでも危ないと思ったら、すぐに京夜先生の後を追いますから!」


"お願いします!!"

真剣な表情でそう言うと、スズはガバッと頭を下げる。

確かに彼女の言うことは一理ある。それは花魁坂も分かっていた。

でも大事な弟子…しかも自分の身を守ることが難しい少女と離れる決断をするのは、かなり覚悟が必要だった。


「……分かった。ただし、本当に絶対無茶しないで。一度伝えようとしてダメだったら、必ず引き返すこと」

「はい」

「…嫌だからね、さっきと逆の状態になるの」

「! 分かってます。絶対京夜先生を悲しませるようなことはしません!信じて下さい…!」

「俺はいつだってスズのこと信じてるよ。じゃなかったら、今無理やりにでも連れて行ってる」

「先生…!」

「ふっ…また後でね」

「はい!」


そうして花魁坂は、後ろ髪を引かれながら、全開笑顔のスズに一旦別れを告げた。


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危険な状態の花魁坂、そして突然自分の前から姿を消したスズ。

彼女が間違いなくさっきの現場に戻ると踏んだ皇后崎は、2人がいるであろう火葬場前へと向かった。

だがそんな彼の前に、蓬が立ちはだかる。

お互いに血触解放し、戦い始めて数分…

相対している蓬の背後に、皇后崎は1つの人影を見つける。


「(ん?あれ、まさか…)」

「戦闘中に余所見なんていい度胸っすね」

「(やっぱりこっち来てたか…!)」

「無視っすか。舐められたもんっすね!」


イライラMAXの蓬の攻撃をかわしつつ、皇后崎は向こうからコソコソと歩いてくるスズを確認した。

自分に何かを伝えようとしているようだが、こちらが戦っているため、なかなか落ち着いて内容を把握できない。

この状態が続けば、いつかは蓬にスズの存在がバレる。

そこで皇后崎は内容把握を後回しにし、まず彼女を隠す方へ作戦をシフトした。

目線で通路の上にある配管に上がるよう合図を送れば、スズはすぐに意図を理解するのだった。

持ち前の運動神経でサッと上に行ったスズを見て、小さく息を吐いた皇后崎だったが、次の瞬間…!

蓬が無数に出していた箱の1つに閉じ込められてしまう。


「(しま…!)」

「はっ…!」

「はい、これでもう私の許可がないと出られないっす。一丁上がりっすね。それと…上にいるのバレてるっすよ!」


そう言った蓬は、スズが上がっていた配管目がけて自身の菌を飛ばす。

真っ直ぐにスズへ向かって来た菌は箱状に変わり、あっという間に彼女の手足を拘束した。

動きを封じられたスズは、その状態のまま通路に落下した。


「いだっ!!」

「あんた無陀野の秘書…っすよね。先輩に連れ帰るよう言われてるんで、一緒に来てもらうっす」

「嫌ですけど!って、それよりも…皇后崎君!」

「こっからが面白いっすよ」


笑みを浮かべた蓬が少し指を動かすと、それに合わせて皇后崎を閉じ込めている箱がグググと小さくなっていった。

最初は幅が狭まり、それからだんだんと高さが低くなっていく。


「体って結構小さくなるんすよ。圧死するまで体感してってくださいよ」

「圧死!?皇后崎君、早く出て来て!!」

「分かってる!ブチ破ってやるよ!」

「無理っすよ。鬼の血って結構な集中力と精神力が必要っすよね?その状態で出すのは無理っすよ。

 閉所って自然と脳が拒否すんすよ。狭くなるならなおさらっす。頼りの血も使えず、圧死確定っすね」

「昔を想い出すぜ…」


何もできず祈るしかないスズの耳に、皇后崎のそんな声が聞こえ、続けて何かが箱に当たる音が聞こえてくる。

しばらくその音が続いた後、蓬の箱は見事なまでに粉々になった。

そこに立っていたのは、背中から自身の血で造った切断器具を出した皇后崎だった。


「昔、廃墟ビルのダクトで寝泊まりしてた時がある。汚いし悪臭も酷かった。あそこと比べりゃ、今のはまぁまぁいい物件だったぜ」

「ガキが…」「皇后崎君…!私は信じてたー!」

「(早いとこあいつの近くに行かねぇと…いつ連れてかれるか分かんねぇ)」


未だ蓬側の方で転がっているスズをどう助けるか考えていた皇后崎だったが、背後から聞こえたボンという音に振り返る。

投げ捨てられたアグリの首と共に現れたのは、和室でバラけた同期の矢颪だった。


「こんな雑魚で俺を殺せると思ってんのか?舐めすぎだろ!イラつくぜ!発散させろよ!この怒りをよぉ!」

「引っ込んでろ」

「あぁ!?命令すんじゃねーよ!イラついてんだこっちは!俺があの桃太郎を…桃……なんだその格好!無闇に露出しやがって!」

「別にいいっしょ」

「碇君!今そこどーでもいいから!」

「よくねーよ!TPO考えろ!馬鹿が!肌なんか出しやがって!イライラする…!つーか、スズ!?お前そこで何してんだよ!」

「何してるって…捕まっちゃったんだよ!申し訳ない!」

「しょうがねぇな!…今日の怒りは何を生む?」


親指に歯を当て血を流すと、矢颪もまた自身の血を解放した。

床へと落ちた血は、少しずつ形を変えていく。

皇后崎の時と同じように無数の箱を繰り出す蓬だったが、その合間を縫って矢颪がもの凄いスピードで向かって来た。

そして勢いそのまま、蓬の顎を蹴り飛ばすのだった。


「くっ!(なんだ今の速さは…首持ってかれるかと思った)」

「ちっ、今回は"ハズレ"だ。怒りの質がわりーな。今日はブーツか」

「(碇君の血触解放…!すごいな)」

「スズ、ちょっとジッとしてろよ」


スズが何か返事をする前に、矢颪は手足を拘束されて動けない彼女を俵担ぎにすると、一旦蓬から距離を取った。

それから壁を背にしてスズを座らせると、矢颪は立ったまま、皇后崎は片膝をついてそれぞれ彼女に視線を向ける。


「碇君、ありがと…!」

「おう。大丈夫か?」

「うん、何とかね」

「ケガは?」

「配管から落ちたからあちこち痛いけど、折れてるとかじゃないからすぐ治る!皇后崎君もありがとう!」

「…あぁ」


会話がひと段落し、スズの手足についている箱を壊そうかと思っていた矢先、不意にその場にいた全員が揺れを感じる。

それは最初こそ小さかったが、徐々に強さを増し、気づけば通路を崩壊させんばかりの揺れになっていた。


「おい!なんだ、揺れてんぞ!?勝手に揺れんじゃねー!」

「このまま揺れ続けたら、支部が崩壊する…!」

「だな。どういうことだ…」


収まる気配を見せない揺れに不安を感じながら、スズたちは天井を見上げるのだった。



to be continued...



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