一度始まった揺れは、その後も弱まることなく続いた。
そしていよいよスズたちがいる通路の壁面にもヒビが入り、崩壊が現実味を帯びてくる。
と、そこへ更にドドドッ…という不穏な音が聞こえてきた。
3人がバッと目を向けた先には、数時間ぶりに会う頼れる人物の姿があった。
第17話 変わろうとしないことが問題 〜 ありがとう!
「もう逃がさないぞ」
「ムダ先!」
「来たか」
「無人先生…!」
「今いいところだったんだよ!邪魔すんじゃねーよ!」
相変わらずイライラしながら叫んでいる矢颪を無視し、無陀野は彼の背後に見えている秘書の元へ駆け寄る。
膝をつき目線を合わせると、スズの手足を拘束していた箱をいとも簡単に壊しながら声をかけた。
「唾切に何かされたか?」
「接触はしましたけど、特に何も。2人もいてくれましたし大丈夫です!」
「そうか…俺の秘書かと聞かれただろ」
「あ、はい」
「…危険な目に遭わせて悪かった」
「! 先生は何も悪くないです!」
「だが事実、こうして影響が出てる。これから何か聞かれても、知らぬ存ぜぬで通せ」
「そんな…私は先生の秘書になって後悔したことなんて一度だってないです。それでも隠さないとダメなんですか…?」
「そうだ」
「…無人先生も、秘書はいないって言うんですか?」
「お前の身を守るためだ」
「……目の前で言われるとショックだから、私がいる前では絶対言わないでください」
「拗ねるな」
「拗ねてません」
少し不満そうな表情を見せるスズに何か伝えようと口を開きかけた無陀野だったが、桃太郎がそう長々と待っているわけはなく…
自身の能力を発動した蓬は、上着を脱ぎ捨て臨戦態勢に入った。
今地下通路には戦闘部隊の一般隊員たち、スズを含めた生徒3人、そして彼らの担任の先生がいる。
この場面で桃太郎の相手をするのは…もちろん無陀野である。
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「無陀野さん…どーします、これ…?」
「…」
「閉じこもっちゃってますよ」
あの蓬と言えど、無陀野が出てきては勝ち目はない。
桃太郎は自分1人という状況も相まって、先程までの強気な態度から一変…自ら作り出した箱の中に身を隠してしまった。
「もう壁を塞ぐ力も残ってない。放っておこう」
「いいんすか!?」
「崩壊も近い。優先すべきは内部の救助だ」
隊員にそう答えると、無陀野はスズたちを連れて支部内へと足を速める。
その道中皇后崎が、気にしていたもう1つのことを無陀野へ問いかけた。
「なぁ。途中でチャラい医者見たか?」
「京夜か?いや。スズ、何か知らないか?」
「知ってます…!っていうか、私はそれを皇后崎君に伝えるためにここに来たんです…」
「…あぁ、確かに何か言おうとしてたな」
「バタバタしててすっかり忘れてた…ごめん。一言で言えば…大丈夫!」
そうして内部へ到着した一行は、スズの言葉の意味を目の当たりにする。
声がする和室を覗けば、そこには変わらず元気な花魁坂の姿があった。
だが安心したのも束の間、慌ただしさで忘れていた皇后崎のイライラが無謀な行動を取ったスズへと向かう。
「…ね?大丈夫だったでしょ?」
「お前な……そもそも1人で動き回るとかバカ過ぎだろ。自分の立場分かってんのか?」
「そう、だね…」
「お前攻撃も防御もできねぇんだろ?もっと考えろよ」
「うん…ごめんなさい」
「ちょっと待て。スズ、お前1人で行動したのか?」
「は、はい…」
「…どういうつもりだ?」
「あの…きょ、京夜先生が…死んじゃう、と思って…」
「だとしても、お前は一番危険な行動を選んだんだぞ?俺に連絡するとか、他の奴を連れて行くとか、方法は他にもあっただろ」
「ごめんなさい…」
「まぁまぁ、2人ともその辺にしてあげて?スズがいなかったら、俺間違いなく死んでたからさ。ね?今回は大目に見てあげてよ」
「お前は何してたんだ。少なくとも自分に対する治療が終わった後に、スズが地下通路を1人で行くことは止められただろ」
「それは…うん、そうね。ごめん。…あとで揃って怒られるからさ、今は逃げないと。他の子は避難準備してるよ」
花魁坂の言葉にため息をついた無陀野と皇后崎は、他の隊員たちと同じように避難に向けて動き始めた。
そんな中で、自分のせいで一緒に怒られてしまった師匠に申し訳なさそうな顔を向けるスズ。
分かりやすくヘコんでいる彼女の頭にポンと手を置いて、"俺のことは気にしなくていいよ"と花魁坂は穏やかに微笑んだ。
「2人ともスズを心配して出てる言葉だからさ」
「はい…」
「まぁちょっと言い方はキツイけどね」
「本当に…泣くかと思いました」
「ふふっ」
「でも…もっと気をつけるようにします」
「ん。素直でいい子。…本当にありがとね、スズ」
頭に置いていた手を肩に回し少し抱き寄せると、花魁坂はスズの耳元でそう囁いた。
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