それから1時間もしないうちに、生徒たちは各自支度を整え、港に集合していた。

早朝ということもあり、見送りは花魁坂と芽衣の2人だけだ。


「じゃーなー!次は普通に観光したいわ」

「はは!マジで来なよ!芽衣ちゃんもこっちで引き取るから、たまには会いにおいで」

「おい、出発するぞ」


無陀野の合図で、生徒たちはゾロゾロと動き出す。

そんな中で花魁坂は、またしばらく会えなくなる愛弟子に声をかけた。

小走りで自分の方へ走ってくるスズに、彼は笑顔を見せる。


「久しぶりの京都だったのに、全然ゆっくりできなかったね」

「本当に…さっき四季も言ってましたけど、今度は絶対観光で来ます!」

「ふふっ。待ってる!…あ〜またしばらく会えないのかぁ」

「寂しい?」

「うん、寂しい」

「!」

「行かせたくない」

「京夜先生…!」

「…な〜んてね。冗談だよ。また連絡する」

「は、はい…!」


真面目な顔で告げられた師匠の言葉に、スズは頬を赤く染める。

分かりやすく反応を示すスズの頭を撫でてから、花魁坂は優しい笑顔で彼女を送り出すのだった。


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スズと花魁坂が話している頃…

芽衣は自分を守り、助けてくれた一ノ瀬へ声をかけていた。

彼女の心からのお礼と満開の笑顔に、一ノ瀬もまた明るい笑顔で言葉を返した。

と、そんな彼の元へ、何かを思い出したように芽衣が駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん!」

「ん?」

「あのね、天使のお姉ちゃんがお兄ちゃんのこと褒めてたよ!」

「え、スズが!?」

「うん!すごく優しくて、誰かのために頑張れる人だって言ってた」

「へへっ。そっか!教えてくれてありがとな!」


芽衣に嬉しそうにそう言ってから、足取りも軽く船に乗り込む一ノ瀬。

後から乗って来たスズを見つけると、ニコニコしながら駆け寄った。


「スズ!」

「あ、四季!どしたの、そんな嬉しそうにして」

「芽衣から聞いたんだけどさ…スズ、俺のこと褒めてくれたんでしょ?」

「えっ!?あ、うん…!」

「それ聞いたらすげー嬉しくてさ!だから今度は直接褒めて欲しいな〜って!」


キラキラした目で自分を見つめてくるワンコのような一ノ瀬に、スズも思わず笑みが漏れた。

多少恥ずかしさはあったものの、これだけ望まれて無視はできない!とスズは男気を見せる。

一ノ瀬の髪の毛をワシャワシャと撫でながら、今回の彼の活躍っぷりを褒め称えるのだった。


「よくやったぞ、四季ー!!頑張った!あの唾切を倒すなんてすご過ぎるよ!」

「うわっ…!」

「…四季がいなかったら、今こうして皆で帰れてたか分からない。芽衣ちゃんだって、あんなに明るく笑えてなかったと思う。

 私ね…四季のその真っ直ぐで、誰かのために頑張れる性格がすごく好きなんだ。傍にいると元気もらえるの。

 だから今までのことも、今回のことも、本当にありがとう。お疲れ様!」


頭を撫でていた手を止めて穏やかに話していたスズは、そう言って一ノ瀬へ優しい笑顔を向ける。

ド直球で褒められたこと、頭を撫でてくれた優しい手、自分が大好きな笑顔…

その全てが一気にやってきて、褒められ慣れてない一ノ瀬の脳内は嬉しさと照れくささでぐちゃぐちゃになる。

結果、彼はその場に座り込んでしまうのだった。


「え、四季!?大丈夫!?」

「だ、大丈夫…!あ、えと、その…」

「ん?」

「…嬉しすぎて、処理しきれねぇだけ…だから」

「! ふふっ。四季、顔真っ赤だよ?」

「い、言うなって…!自分でも分かってっから…!」


赤い顔のまま上目遣いでこちらを見る一ノ瀬に、スズもまたドキドキしてしまう。

普段のやんちゃな彼からは想像もできない程、その表情は可愛らしいものだった。


「四季も整った顔してるよね」

「へ?」

「今の表情もすごく可愛かった!」

「可愛い!?俺が?マジで言ってる?」

「うん!言われたことないの?」

「ねぇって!初めて言われたよ」

「そっか!じゃあ四季のモテ期はこれからかな!」

「え〜そんなの来るかな〜?…って、俺の話はもういいから!それより俺、スズの話聞きたい!」

「私の?」

「おぅ!スズ、前まで京都にいたんだろ?そん時のこととか教えて!」

「ん〜特に変わったことないと思うけど…まぁ時間もあるし、少し聞いてもらおうかな…!」


そうしてスズは、動き出した船の上で自分の過去について話し始めるのだった。



to be continued...



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