京都の街にひっそりと建つ、とある小さな診療所。
穏やかな夫婦がやっているこの診療所は、丁寧な対応と的確な診療で近所の人達からの評判も上々だ。
そんな夫婦の間に、ついに念願の赤ちゃんが誕生した。
しかし近所の住民も大喜びしたこの女の子の赤ちゃんには、他の子とは大きく違う特徴が1つ…
彼女の頭には、2本の角が生えていたのだ。
第18話 出会いと始まり
「スズちゃ〜ん、ここ治してくれー!」
「またー!?少しは体大事にしてよ!」
「悪い悪い!」
足に切り傷がある作業着姿の男性に治療を頼まれたスズという名の少女。
大人の男相手にガッツリ注意している彼女こそ、鬼の角を持って産まれてきたあの赤ちゃんである。
すっかり大きくなり、スズは今年中学生になった。
「今回はこのぐらいで済んだからいいけど、もっと大変なことになったらどうすんの!」
「悪かったって!これから気をつけるから!…にしても、相変わらずすごい力だよな〜」
「ね〜自分でも毎回ビックリしてる」
そう言いながら笑顔を見せるスズ。
男性が言う"すごい力"というのは、彼女が持つ特殊能力のことだ。
鬼ではない両親から、なぜか鬼の力を持って産まれてきたスズの血には、人間の体の一部を生成する力がある。
臓器や血管などの内部的なものから、手足や頭部といった外部的なものまで、体のありとあらゆる部位を作ることができるのだ。
よって先程のような診療所に行くほどではないケガをした人達から依頼され、その手当てなどをしているというわけ。
普通なら、こんな力を持った子供なんて気味が悪いと敬遠するだろう。
だが彼女の両親はもちろん、近所の住民達の誰一人としてそんなことをする者はいなかった。
それはひとえに、スズの両親と彼女自身の人柄あってこそ。
結果鬼の力があるにも関わらず、スズ達はとても平和な日々を送っていたのだった。
そしてスズの力はその特殊さ故に、街中ではちょっとした噂になっていた。
"どんなケガでも一瞬で治しちゃうらしい"
"手足の骨折治すのも余裕だって"
スズに治してもらった人が増えれば増えるほど噂は広がり、街の端の方まで伝わっていった。
そんな噂話に興味を持つ男が1人。
彼は住民からスズの出没箇所を聞き出すと、その足で早速目的地へ向かった。
そして…
「君が木下スズちゃん?」
「? はい、そうですけど…」
「初めまして!」
「初めまして…」
「あ〜そんなに警戒しないで!怪しい奴じゃないから。俺も君と同じ…鬼だよ」
そう言いながら頭に角を出して見せれば、スズは驚きのあまり目の前の人物を凝視した。
というのも、スズは自分と同じような角を持つ人物を見たことがなかったのだ。
驚く彼女を穏やかな顔で見つめながら、花魁坂と名乗った男は今日ここに来た目的をゆっくりと話し始める。
自分は鬼機関に属しており、そこの援護部隊として活動していること。
鬼機関と敵対する桃太郎機関というのが存在し、現在戦争中であること。
そしてスズの能力次第では、自分の隊にスカウトしたいということを。
「私を…ですか?」
「そっ!噂で聞いた感じだと即戦力になれると思うんだよね」
「即戦力…」
「うん。だからちょっと君の力を見せてもらいたいんだけど…あ、ごめん!電話だ」
そう言うと、花魁坂は電話越しに何やらいろいろ指示を出し始めた。
飄々としていた彼の雰囲気が少しだけピリついたところを見ると、自身の仕事場が大変な事態になっているようだ。
そして淀みない話しっぷりの最後に、彼はこう付け加える。
「…うん、俺もすぐ戻るよ。即戦力を連れてね」
「?」
「てことでスズちゃん、この後時間ある?」
「あ、はい。学校休みなので」
「よし!じゃあちょっと俺と一緒に来てもらえるかな?」
「え、どこにですか?」
「鬼機関の京都支部。あ、行き方と場所は誰にも言っちゃダメだよ?」
「わ、分かりました…!」
そうして清水寺の地下にある京都支部へと向かう2人。
今後長い付き合いになるかもしれないということで、花魁坂は途中スズの両親と話し合いの場を持った。
先程スズに話した内容をかいつまんで伝え、将来的には自分の元で一隊員として働いてもらいたい旨を話す。
突然のことに驚き返事を渋っていた両親だったが、花魁坂の熱意と何よりスズが関心を持っていることが決め手となり、承諾の意を返すのだった。
- 41 -
*前次#
ページ:
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
短編 目次へ
章選択画面へ
home