移動すること30分…

スズと花魁坂は無事に鬼機関・京都支部へと到着した。

道中2人での行動になったわけだが、花魁坂の明るく気さくな性格のお陰か、スズの表情もやっと柔らかくなってきていた。


「どう?まだ俺のこと怖い?」

「あ、いや全然!元々悪い人だとは思ってませんでしたから」

「え、そうなの?でもめちゃくちゃ警戒してたよね?」

「それは…なんかチャラくて変な人だと思ったから…」

「え〜酷い〜俺こう見えて結構偉いんだよ?」

「えっ!そうなんですか?」

「うん!だって俺「先生!!早く来て下さい!」


可愛らしい服に身を包んだ看護師に呼ばれた花魁坂は、"そう慌てないでよ〜"などと言いながら彼女達の方へと向かう。

そして彼の後に続いて入った部屋の中で、スズは凄まじい現場を目撃することになった。

辺り一面に横たわっているたくさんの鬼達。

その誰もが手足や体躯の損傷が激しく、今にも息絶えてしまいそうなレベルだった。


「…桃太郎ってこんなことするんですか?」

「(損傷の激しさに動揺しないあたりは、さすが医者の娘だね。これは見込みあるかも…!)そうだよ。戦争中だからね」

「酷い…」

「そんな酷い奴らにやられた人を助けるのが俺らの仕事だ。てことで、早速この人を治してみてくれる?」

「分かりました!」

「輸血はどうする?必要なら用意させるけど」

「いえ、大丈夫です!血を流し続けるわけではないので。…じゃあ行きます!」


力強い眼差しで花魁坂にそう告げると、スズは傍にいた看護師からナイフを借り、自身の手首を切りつける。

目の前で苦しむ鬼は右手を損傷しており、肘から先が失われていた。

スズがその失われた部分に自分の血を落とし始めると、血は自然と手の形に成形されていく。

そしてある程度の形が出来た段階で彼女の血は勝手に止まった。

そこからはスズ自身が両手を使って、手の細かな部分を粘土細工を作るように整えていく。


「……よしっ、できた!」

「(! 思ってたよりも遥かにすごい力だ。治療スピードが早いし、体内に血を入れないから患者への負担が少ないのも魅力的。あとは術後の状態だけど…)

 旦那、腕の感じはどうっすか?ちゃんと動かせます?」

「あぁ、バッチリだよ!ケガしてたのが嘘みたいだ。お嬢ちゃんすごいな!ありがとう」

「あ、ど、どういたしまして!」

「(参ったね。こりゃ即戦力どころか、今すぐ隊のNo.2だ)スズちゃん」

「はい!」

「正式に君をスカウトしたい」

「!」

「俺と一緒に、この援護部隊を支えてくれないかな?」

「私の力がお役に立てるのなら喜んで!」

「本当に!?やった!」

「よろしくお願いします…え〜と…」

「あ、俺のことは京夜先生って呼んで。これから長い付き合いになるからね!」


にこやかにそう言って差し出された花魁坂の手を、スズは緊張しながらも笑顔で握った。

その手を握ったまま、花魁坂は彼女を連れて畳敷きの部屋の中心へ…

そして忙しく動き回る仲間達に向けて声をかける。


「皆〜ちょっといい?新しい仲間を紹介しま〜す!」

「「「?」」」

「隊のNo.2兼…俺の秘書になってくれた木下スズちゃんです!」

「(秘書…?)よ、よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!」」」


その場の全員が笑顔で彼女を受け入れると、すぐさま患者のために再びバタバタと動き始めた。

何の文句も出ず、あまりにアッサリと受け入れられたことにスズは戸惑いを隠せない。

さっきの秘書発言のことも含めて、彼女は花魁坂に質問を投げかけた。


「あの京夜先生…皆さんこんなに普通に受け入れて下さるんですか?」

「うん。だってスズちゃん、悪い子じゃないじゃん!」

「いや…でも皆さんにご挨拶とかしてないから、私がどんな奴か分からないですよね?」

「んーそこはまぁ俺を信用してくれたんでしょ」

「?」

「…あ、そうか。さっき言いかけて終わっちゃったんだったね。俺ここでは結構偉いのよ」

「そう言ってましたね。そんなに…ですか?」

「うん。一応総隊長だからね!」

「総隊長……えっ!?一番偉くてすごい人じゃないですか!」


"そんなに言われると照れるな〜"

スズの驚きとは裏腹に、花魁坂は至極のんびりしながらニコニコと笑う。

この若さで総隊長を務めるということがどれ程すごいことか、まだ中学生のスズにもよく分かった。

そんなすごい人物と関わることになっただけでなく、秘書まで務めるということに戸惑いは増すばかりだ。


「あ、あの先生…さっきの秘書というのは…?」

「あぁ、あれね!さっき思いついたんだ。俺さ〜何かと会議とか出張とか多いわけ」

「総隊長ですもんね」

「うん。でもそういう予定とか管理するの苦手でさ〜今までは看護師さん達に管理してもらってたの」

「ほぉ」

「だけどこういう状況になると、看護師さん達みんな俺のことは後回しになるのね。

 でも管理してもらわないと俺動けないし、かと言って一般人から秘書を連れてくるわけにもいかない」

「あらゆる事が機密事項ですもんね」

「そういうこと。そこでスズちゃんだよ!」

「私…ですか?」

「うん!スズちゃんは隊のNo.2だから、今後は俺と一緒に会議とか出ることになる。

 そうなれば、これからスズちゃんと常に一緒にいることになる俺も自然と会議の予定が把握できる」

「なるほど…って、私も会議出るんですか!?」

「もちろん。それに大前提としてスズちゃんは鬼だし、もう言うことなしでしょ!だから秘書としてもよろしくね!」


サラッといろんなことを言ってのけた花魁坂は、お馴染みになった笑顔でスズの頭を撫でる。

その無駄に整った顔で見つめられては、彼女に拒否権はなく…

"よろしくお願いします"と、頭を下げるのだった。



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